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『ラストチャンス 再生請負人』-行く手を阻む「七つの試練」が人生に深みを与える

「ドラマの原作本」の第二弾は、江上剛『ラストチャンス 再生請負人』(講談社文庫、2018年)。2018年7月期に、テレビ東京のドラマBizで放映された『ラストチャンス 再生請負人』の原作。元銀行マンの樫村徹夫が、崖っぷちの飲食業を再生する波乱万丈の物語です。主演者の仲村トオルさんの熱のこもった演技を思い起こす人もいるのではないでしょうか。

 

[おもしろさ] 「七味とうがらし」と「人間力」との微妙な関係

新宿で辻占いをしている老いた女性占い師に手相を見てもらった樫村。次のように言われます。「人生、七味とうがらしだね。うらみ、つらみ、ねたみ、そねみ、いやみ、ひがみ、やっかみ。この七つの味が、人生に深みを与える。まあ、あんたの人生は、今まで順調だったね。面白くもなんともない。味で言えば、薄味。深みも特徴もない。しかしこれからは七味とうがらしをたっぷりきかせた、味に深みのある、特徴のある人生になるってことだよ。いい運勢にするも、しないもあんたの心掛け次第。いずれにしてもこれからがあんたの本当の人生になるんじゃよ」と。七味とうがらしを浴びることになるというその言葉通り、再建をめざす樫村には、想像を絶する壁が立ちはだかります。しかし、その都度、それらを克服していくのです。「しんどさ」「おもしろさ」「人間としての深み」を経験するなかで、会社の再生というプロセスが進行していくところが本書の醍醐味と言えるでしょう。

 

[あらすじ] 再生請負人が挑む企業再生へのいばらの道

銀行に就職して22年目、44歳の主人公・樫村徹夫は退職し、飲食フランチャイズ会社のデリシャス・フード・システム(DFS)の再建に関わることになります。同社のオーナーであった創業者の結城伸治は、蕎麦屋と居酒屋を組み合わせた業態で成功し、瞬く間に事業を拡大し、一時は「飲食業の寵児」に呼ばれるほどに。ところが、資金繰りが苦しくなり、経営から退いてしまいました。樫村は、さっそく会社の実態をつかんで、処方箋、すなわち再建プランを策定するという企業再生の王道に従って、行動を開始します。現場の協力、現場百遍、協力者の確保……。彼によって主導される企業再建は、いかなるものになるのでしょうか? 

 

ラストチャンス 再生請負人 (講談社文庫)

ラストチャンス 再生請負人 (講談社文庫)