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『飲み屋の神様』 - ビジネスのお悩みを解決! 

「仕事の疲れも、飲んでいるうちにどこかに行ってしまう」「すぐ横で飲みながらグチをこぼしているふたりのおじさん、結構大変ですね!」「騒がしい声が飛び交う中、静かに日本酒を飲んでいる一人の若者。なにか深刻そう!」… …。飲み屋とか居酒屋という世界。お酒を飲むことで、日ごろは内に秘められているさまざまな思い・悩み・ホンネが思いがけず噴出するところでもあります。同じようにアルコール飲料を提供するビヤガーデンやバーなどとは異なり、日本酒という食文化が醸し出す独自な雰囲気が漂っています。今回は、居酒屋を扱ったユニークな二つの作品を紹介します。

 

「居酒屋を扱った作品」の第一弾は、中山マコト『飲み屋の神様』(ヒカルランド、2016年)。「ドラッガーなんていらない。大事な事は、飲み屋の神様がぜんぶ教えてくれる!」。その長いサブタイトルに象徴されるように、ビジネスのヒントをくれる居酒屋「樽一」が舞台。そこで働いている夏奈が客の悩みを受け止め、それにふさわしい解決策を提示してくれるのです。ただし、入り口の「お悩み相解居酒屋」という看板を見ることができるのは、悩みを持っている人に限られるというちょっと不思議な居酒屋ですが。「〇〇は怒っていた」で始まる九つの短編で構成される連作集です。

 

[おもしろさ] ビジネスのヒントがタイトルに

本書のおもしろさは、ほとんどの話において、①夏奈が相談者の実情・悩みを洗いざらい聞く中で、その人に最も必要と思われる解決策・対応策を伝えること、②そうした施策を実践している料理店-すべて実在する-に相談者を案内し、その大切さを自身でも気づいてもらう機会を提供していること、③彼女が提示する具体的な解決策が各短編のタイトルになっていることです。例えば、「これまでに無かったマーケットを創りましょう」「お客さんを差別してはいけません」「変化を恐れてはいけません」「圧倒的な目玉がなければお客さんは来ません」など。いずれも、ビジネスのヒントになる名言ばかりではないでしょうか! 

 

[あらすじ] 悩みのある人だけに見える看板「お悩み解決居酒屋」

第一話の相談者は国内某生保の営業マン・安井保。都心の営業部から埼玉支店への異動を申し渡されます。同支店では、契約者とのトラブルが日常茶飯事。八方ふさがりの状態に陥っていたのです。支店長から歓迎会の実施について匂わされたものの、1ケ月以上経っているのに、なしのつぶて。「どうせ歓迎されてはいない」と思い込んでいたのです。ある日のことです。歌舞伎町の以前何度か行ったことがある店に向かった安井は、そこで樽一という名の居酒屋が出店していることを発見。ドアを開けようとすると、まさに一瞬だけなのですが、「お悩み解決居酒屋」という文字が網膜に飛び込んできたのです。やがて、宮城県塩竃の銘酒・浦霞とカニ味噌のおいしさ、スタッフの手際の良さに満足した彼は、店長の慎太郎に「表に小さく“お悩み解決”って書いてあった気がするんですが、何のことですか?」と尋ねます。すると、担当の夏奈がやってきて、言いました。「お悩み解決居酒屋っていう看板は、悩みのある人にしか見えないんですよ。私がお悩み解決士です。悩み、ありそうですね~。ぜ~んぶ話してください!」。その言葉を受けて、自分の悩みのいっさいを打ち明けた安井。夏奈のこともいろいろ聞かされました。そして、店を出るとき、彼女からメモを渡されました。そこには、「答えはすべて、お客さんが知っているんです」と書かれていました。3日後、メールで連絡を受けた安井が夏奈に連れていかれたのは、大分郷土料理のお店「とど」。その店の女将から「今ある料理のほとんどはお客さんから教えてもらったもの」と聞かされたのです。その言葉を肝に銘じた安井は、仕事のやり方を大きく変えました。そして、「お客さま向け企画」の担当者として、実に楽しい気分で仕事に邁進できるようになったのです。