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『ライバル』 - 社長の資質とは? 

「会社のトップを扱った作品」の第二弾は、安土敏『ライバル』(ダイヤモンド社、2011年)。同じ年に総合商社に入社した二人の男性。やがて次期社長の座を争うライバルに。両者間で繰り広げられる「つばぜり合いと心の交流」が、関連会社との関係や川下作戦(例えば、商社によるスーパーの経営)のむずかしさといった総合商社の抱える課題と絡めて描かれています。

 

[おもしろさ] 「求められるのは、私心のないことだ」

本書のおもしろさは、第一に、総合商社の役員たちが関連会社を本社にとっての「取引先」「配当の源泉」「出向先」といった程度にしか考えていないという実情、第二に、社長の条件とはなにかを明示している点にあります。第一の点に関しては、①関連会社の顧客が求める商品ではなく、親会社にとって都合のよい商品を押し込み販売してしまう傾向、②関連会社の運営に必要な固有のノウハウ・専門知識を理解しようとしない役員たちの姿が指摘されています。第二の点については、「いまリーダーに求められているのは、私心のないことだ。それは能力より教養より、はるかに重要なリ-ダーとしての資質だ。当たり前のことを認め、当たり前のやり方で改革する、そのときにどれだけ抵抗があっても曲げない」。そんな人物こそがリーダーにふさわしいと述べられています。

 

[あらすじ] 「トップになれる精神状態に到達」するまで

1960年、同じ出身大学から総合商社である国際交易に入社した御堂信太郎と池上唯史。同期生であると同時に、良き友人でした。歳月は流れます。1997年、二人とも専務取締役のポストを占め、次期の社長の座を争うライバルになっていました。トップをめざそうという野心に燃えていた御堂は、妻のガンに直面。これまでの「会社以外の人生の比率が低すぎる」という現実に懐疑的になり、私心をなくして、辞職を決意します。ところが、皮肉なもので、そのとき初めて社長からやっとトップになれる精神状態に到達したことを明かされます。