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『倒産仕掛人』 - 危ない会社に群がる危ういビジネスマンたちの格闘

「倒産を扱った作品」の第三弾は、杉田望『倒産仕掛人』(文芸社文庫、2017年)。会社はいったん倒産の憂き目にあっても、再建されて再び上場にまでこぎつければ、巨額の上場益を生み出すことができる! 危ない会社を事実上の倒産に追い込み、そこで利益を上げるあくどいビジネスを行うのが、「倒産仕掛人」と称される人たち。経営能力の乏しい二代目が跡を継ぎ、破たん寸前まで追い込まれた老舗製菓会社「興国食品」。それを食いものにして利益を得ようとする、商社やメガバンクの暗躍が描かれています。多くの作品を手掛けてこられた著者・杉田望。入念に考え込まれた物語構成や人物配置には、経済小説作家としてのパワー満載の作品です! 

 

[おもしろさ] 最後まで「だれが敵か、だれが味方かわからない」

興国食品の創業者木村庄助。いまは、息子である二代目の木村義正が社長を継いでいます。従業員約400名、年商180億円の社長としては、気楽なもので、彼の関心はすべてゴルフにあります。商売そっちのけでゴルフにうつつを抜かしているのです。倒産の危機に瀕するようになった同社をターゲットに、さまざまな仕掛けを考えている人たちが登場します。①メインバンクである東亜銀行で、法人営業を担当している副頭取の稲沢美喜夫、②同社が必要とする原材料を全て納入している総合商社・日東商事の常務執行役員・島田道信、③興国食品の顧問弁護士である野村克男、④日東商事のライバル社である賛光商事の部長柿沼祐一です。本書のおもしろさは、それぞれの取り巻きを含め、四人のキーパーソンがそれぞれの思惑と打算をぶつけ合い、最後まで「だれが敵か、だれが味方かわからない」つばぜり合いを繰り広げるという、ストーリー展開のおもしろさにあります。

 

[あらすじ] 島田道信と稲沢美喜男:連携から対立へ

名門総合商社・日東商事の常務執行役員である島田道信の社内におけるあだ名は「鬼軍曹」。「知恵のないヤツは敗北者だ」と豪語する男です。法律的には適法なのだが、だましも脅しもあり、やられたら倍返しの、違法と適法のギリギリのニッチをうまくやってのけるのが、彼のやり方。すでに総額395億円にも及ぶ不良債権を抱え、破綻状態にある興国食品。が、年商500億円を実現させている技術とブランド力は大変な価値を持っています。それゆえ、同社を2年以内に東証二部に上場させ、そこでたんまりと上場益を稼ぐ。それが彼の4年前から抱き続けてきた胸算用。その目的を実現させるため、東亜銀行の稲沢副頭取と連携しながら、準備を進めてきました。ところが、事態は島田の思い描いた思惑通りには進めません。稲沢を含めた何人かの「敵対者」が陰に陽に、島田の思い描いた道筋とはまったく異なった動きを見せるのです。