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『スキャンダル除染請負人』 - 危機管理に携わる人には、必読の参考書! 

「企業のリスク対応力を扱った作品」の第二弾は、田中優介、田中辰巳『スキャンダル除染請負人 疑似体験ノベル危機管理』(プレジデント社、2018年)。企業・組織でトラブルや不祥事が起こったとき、当事者の多くは、隠したり、逃げたり、取材を拒否したりしがちになってしまいます。それほど深刻に考えない場合すらあるのです。その結果、ダメージが一層増幅してしまうこともまれではありません。しかし、危機管理の専門家からすると、むしろ丁寧に対応することこそがベスト。そのことがリスクを最小限に抑えてくれるからです。ただ、そうはいっても、素人にとっては、いったいどのように対処すれば良いのかは、けっして簡単ではありません。そこに、危機管理コンサルタントが活躍する場があるのです。企業の危機管理に携わる人にとっては、必読の参考書になるはずです。

 

[おもしろさ] リスクを軽減させていく手法、見事です! 

この本のおもしろさを一言で表現しますと、不祥事が起こったときの周囲の対応と、危機管理コンサルタントの対応のギャップの大きさが、興味深く読者に伝わっていく点にあります。例えば、専門家がまったく関与しない記者会見と、コンサルがサポートする記者会見には、雲泥の差があることをひしひしと感じされられます。ものの見事にリスクを軽減させていくのです。それは、著者が危機管理の専門家として実際にビジネスに携わり、実績を残してきたという経験に裏付けられているからでもあります。謝罪会見で役に立つのは、Q&Aというよりも、Q&P、すなわち、質問を大きく分類して、回答のポリシーを作っておくべし! テイクノートしておくべきものと言えます。

 

[あらすじ] 不祥事が起こったとき、想起すべきこと

警備・探偵業務に加えて、危機管理のコンサル事業を立ち上げたDCB(ダメージ・コントロール・ブレーン)。約300名の大半は、警察のOBで占められています。主人公は同社の取締役・チーフコンサルタントの橘沙希(42歳)。そこには、経営者の不倫未遂、放射能に汚染された自動車のエアフィルター、怪文書、顧客データの流出・漏えいといったさまざまな問題に関する相談が持ち込まれます。それらの不祥事に対する沙希の原則は、「うそをつかない」「誰に向かって謝罪するかも明確にする」「遺憾・誤解・お騒がせした・知らなかったの四つは、他人事のような印象を与えるので、謝罪会見では使わない」というもの。「感知・解析・解毒・再生」という危機管理の四つのステージを踏まえながら、顧客が受けるダメージを最小限に抑え込んでいく姿は、カッコ良さ満載です。

 

スキャンダル除染請負人

スキャンダル除染請負人

  • 作者:田中優介
  • 発売日: 2018/06/14
  • メディア: 単行本