経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『ハロワ!』 - 就職相談員のリアル。苦悩とやりがいのはざま

「就職活動を考える作品」の第五弾は、久保寺健彦『ハロワ!』(集英社、2011年)です。ここまでの4つの作品は、大学生やフリーターの就職活動と採用側の求人活動を対象にしたものでした。今回は、ハローワークと言われる「職業安定所」を舞台に、相談員の視点から、より幅広い求職者の活動を扱った作品となります。ハローワークの活用方法はもとより、求職者の心理状態や相談員との具体的なやり取りなどが盛り込まれており、就職活動をするすべての人に参考となることでしょう。

 

[おもしろさ] 多様な求職者に合致したアドバイスと対応とは? 

求職者は複雑多岐。①ホワイトカラーにあこがれているものの、歯がない元配管工、②エリート意識に固まり、クレームが多く、尊大な態度を取り続けている元銀行マン、③面接が怖くて受けられないアラサー女子、④空気が読めず、敬語が使えない元専業主夫など、いろいろな人物が登場します。そうした人たちに寄り添いながら、職が得られるまで長い時間をかけて支援していくのは、至難の業です。共感しながら話を聞き、けっして怒らせず、ときには自分をさらけ出したりすることも必要になります。この本のユニークな点は、試行錯誤の末に、それぞれの求職者に合致したアドバイスと対応が示されていることです。

 

[あらすじ] 上司の原則論だけでは、信頼を勝ち取れない! 

都内の公共職業安定所ハローワーク宮台を求職者として訪れたとき、千堂統括官からスカウトされて、嘱託として働き始めることになった28歳の沢田信。民間の人材紹介会社で2年間働き、10カ月ほどの引きこもりも経験しています。来年、公務員試験を受けて、正職員になることをめざしているものの、戸惑いながらのスタートでした。千堂から相談員の心得として、「リスクを回避する、確約しない、言質を取られない、支援者の立場を踏み越えない」といったことを諭された信。しかし、そのような原則論だけでは、先に進めないのもまた事実。信は、模索を繰り返しながらも、それぞれに求職者に合致したアドバイスを考え出し、実行に移していきます。ときには、思い切った示唆や本音のトークも交えながら、少しずつ信頼を得ることで一人前の相談者に成長していきます。少しでも力になれたときに感じ取れるやりがいを求めて……。

 

ハロワ!

ハロワ!