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『天職にします!』 - 転職する人に寄り添う仕事を天職に 

4月と言えば、多くの新入生や新社会人が慣れない環境下で第一歩を踏み出すシーズン。初めての学校や職場に大きな戸惑いや不安も感じることでしょう。しかし、新しい出会いや期待に胸を膨らませる人も多いのではないでしょうか。今回は、新たな職場で働き始めた人たちの「悩みと思い」を描いた作品を三つ紹介したいと思います。このブログを読まれておられる方がもし新入生・新社会人であれば、主人公たちの奮闘や心の持ち方から、ちょっとした勇気と元気がもらえます。また、新入生・新社会人を迎える立場にあるのであれば、彼らの胸の内の一端に気づかされることで、これまでとは異なった「励ましやアドバイス」が生み出されるのではないでしょうか。

「『仕事を始める』を扱った作品」の第一弾は、上野歩『天職にします!』(光文社文庫、2021年)。「天職は見つけるものではなく自分で、その仕事を天職にするもの」。新卒採用されたハローワークで働き始めた間宮璃子。多様な事情を抱えた求職者への対応に悩まされながらも、成長を遂げていきます。さまざまな求職者の相談事に、職員たちはどのように対処するのか。ハローワーク職員たちの仕事ぶりがよく理解できるお仕事小説。「働く」ことの意味についても、考えさせられます。求職者がどのようにそこを活用できるのかについても、大いに参考にできる内容です。

 

[おもしろさ] ハローワークの多様な業務内容

職員端末でなければ閲覧できないのが、非公開求人。なかでも採用に関してなど求人側の特別な要望が織り込まれている「特例非公開求人」。人生経験を積んだ方々を相手にする以上、相談員もベテランの方が適しているという考え方から生まれた「シニア応援コーナー」(ハローワークを定年退職した人の再任用者が割り当てられる)。子育てをしながら働きたい方の就職支援を専門に行う「マザーズハローワーク」。職員がいろいろな所に赴いて行う「職業相談」。新卒者の支援に特化した「新卒応援」……。本書では、そうしたハローワークの多様な業務内容についてもわかりやすく解説されています。

 

[あらすじ] 安定しているからという理由だけで選んだ仕事だが……

安定しているからという理由だけで、国家公務員になったのは、「時代劇オタク」のリコ。「研修(2ケ月ごとに変わる)で、ハローワークの部署をあちこち回って仕事を体験している」ところです。配属先は、東京の下町、隅田川のほとりに建つハローワーク吾妻。職員は120名。正規職員と非正規職員の割合は半々。ちなみに内部では、正規職員をプロパー職員、非正規職員を非常勤職員と呼んでいます。相談員は、事業所(求人先の企業)を紹介するだけではなく、会社を辞めるかどうしようかという相談にも応じています。大事なのは、「“人”という文字と、“動”という文字を合わせて“働”。働くとは、人が動くことを表しているんだ。求職者がいったいどのように動きたがっているのか、それを知ったうえで相手に寄り添う。我々の仕事とはそういうものだ」。そのようにアドバイスするのは、現場の職員を取りまとめている「統括職業指導官」(トーカツ)である高垣。リコは、さまざまな求職者の相談に戸惑ったり、驚いたりしながらも、上司や同僚たちの指導・アドバイス・交流を前向きに受け止め、一人前の職員に成長していきます。