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『翼、ふたたび』 - 破綻した航空会社復活の舞台裏! 

「航空会社を扱った作品」の第二弾は、江上剛『翼、ふたたび』(PHP研究所、2014年)。2010年1月19日、ナショナルフラッグとも言われた日本航空が経営破綻。再生の切り札として会長職(兼グループCEO)に招聘されたのは、京セラ代表取締役名誉会長の稲盛和夫でした。本書は、稲盛氏に主導された日航再生劇をモデルに、現場で働く社員の視点で、社内改革がどのように進められていったのかに焦点を合わせ、復活の舞台裏を描いています。日本航空はヤマト航空、稲盛和夫は佐々木和人という名前で登場します。

 

[おもしろさ] 「なんとかなるさ」「誰かがなんとかしてくれる」

この本の特色は、第一に経営破綻に繋がっていくヤマト航空の病弊と、第二に佐々木和人の考え方が社員の間にジワジワと浸透していく過程が描かれていること。前者に関しては、①半官半民の考え方から抜けきれず、危機に直面しても「まあ、なんとかなるさ」「誰かがなんとかしてくれる」と大半の人が思っていた。②ヤマト航空の社長ポストをめぐっては、企画系派閥と営業系派閥の争いがあり、そこに官僚の天下り社長が送り込まれたり、労組の力が働いたりと、伏魔殿そのもの。それが経営の力を削ぎ、組織を内向きにしてしまった。③幹部が現場を見ず、机上の理論や理屈をこねまわしていた。④政治家の言いなりになり、ジャンボジェット機をいっぱい買わされ、多くの赤字路線を背負いすぎた。⑤「パイロット、CA、営業、整備…など、みんな真面目なんだけど、一緒じゃなかった」。後者に関しては、①自由に意見交換を行う「リーダー研修」の実施を通じ、経営幹部が同じベクトルを向くように促していったこと、②すべての職種を網羅して連携を図っていこうという、現場から自然発生的に生まれたCLM(コミュニケーション・リーダー・ミーティング)が功を奏したことなどに言及されています。

 

[あらすじ] バラバラだった社員の意識が徐々に束ねられていく

手荷物サービス係の草薙翔、北京支店総務責任者の森一昭、客室乗務員(CA)の上原博子、ミッションディレクター兼運航乗務員(パイロット)の能見義男、専務取締役の小川淳一。彼ら5名は、それぞれの立場で、運命の日となる2010年1月19日をどのように迎えたのか、また新たに会長に就任した佐々木和人なる人物をどのように受け止めたのかが描かれていきます。都セラミックという会社を一代で築き上げた佐々木の経営の特徴は、アメーバ経営。「これは組織を五人から十人のアメーバ(小集団)に細分化し、部門別採算を徹底して経営マインドを浸透させ、従業員全てに経営参加意識を持たせるというもの」。「ヤマト航空にこんな経営手法が根づくだろうか」といった疑問をはじめ、数々の反感・非難に晒されながらも、小川を除く4名は、「意識改革・人づくり推進部」に配属されたり、広報部に配属されたりするなかで、佐々木新体制の担い手として、経営改革を推進していくことに。バラバラだった社員の意識が徐々に束ねられていきます! 

 

翼、ふたたび (PHP文芸文庫)

翼、ふたたび (PHP文芸文庫)

  • 作者:江上 剛
  • 発売日: 2017/07/11
  • メディア: 文庫