「電機産業を扱った作品」の第三弾は、江上剛『病巣-巨大電機産業が消滅する日』(朝日新聞出版、2017年)。日本を代表する巨大電機産業・芝河電機の「内憂外患」の実情が描かれています。東芝がモデルになっていますが、グローバル化のなかで将来を模索する日本企業の今後を考えるとき、大いに考えさせられる作品に仕立てあげられています。
[おもしろさ] 無責任で非効率な運営体制 + 事なかれ主義の社員
本書の魅力は、巨大電機メーカー・芝河電機が抱え込んだ問題点の摘出を通して、より一般的に、日本の巨大企業が抱えている課題をも浮き彫りにしている点にあります。芝河電機の問題点は、以下の6点に集約することができます。①カンパニー制が採用されているにもかかわらず、指揮系統が極めて複雑で、非効率な運営体制になっているとともに、「自分のカンパニーのことしか考えていない」体質ができあがっていること、②高い値段で買収した原子力発電のEEC(イースタン・エレクトロリック・カンパニー)がお荷物と化したこと、③会長と社長の確執と派閥争い、④工事原価以下での赤字覚悟の受注が行われていること、④「なんとか怒られないようにする言いわけ会議」が横行していること、⑤現地への権限委譲が進んでおらず、いちいち本社に伺いを立てる必要があることで、決断がスローになってしまっていること、⑥経営者の関心は利益だけで、監査報告には無関心という体質になっていたことなど。
[あらすじ] 問題の異常さに対して、見て見ぬ振りの態度を
新興国におけるインフラ整備に貢献することを目的として芝河電機に入社し、ミャンマーでの4年間の業務を経て帰国した瀬川大輔。会議の場で上司に対して「正直に」自分の意見を述べたことで「左遷」され、本社経営監査部勤務を命じられます。社長直属の組織である同監査部は、外見的には大きな権力を持っているように見えるものの、見せかけだけ。十分に機能していませんでした。監査業務の一環としてインタビューを行った社員・山田秀則の意見・心配事を聞く過程で、①不当な安値での入札、②監査委員会も公認会計士もグルになり、問題の異常さに気付いているのに、見て見ぬ振りをしているという実情、南会長と日野社長の間で壮絶な派閥抗争が行われていることなど、会社が抱える深刻な問題の一端に触れることとなります。そこで、瀬川は、指摘された問題を解明し、経営改革に生かすことを山田に表明。その後、瀬川とのインタビューのあと失踪し、自殺することになる山田からの手紙が瀬川の自宅に届けられます。そこには、利益操作が麻薬のように常態化している実態がはっきりと指摘されていたのです…。悲鳴を上げる瀬川。やがて、金融庁証券取引等監視委員会の特別調査課(「市場の番人」と言われ、別名は「トクチョウ」)が動き始めることに。