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『帝王の誤算』 - 手段を選ばぬ強硬策で邁進するリーダー

「経営者のリーダーシップを扱った作品」の第二弾は、鷹匠裕『帝王の誤算 小説 世界最大の広告代理店を創った男』(角川書店、2018年)です。「帝王」という言葉に示されているように、この本の主人公は、徹底したトップダウン型の経営者と言えます。電通をモデルにした「連広」という名称の広告代理店を登場させ、広告代理店業界の仕組み・歴史・業務内容がよくわかる作品に仕上げられています。

 

[おもしろさ] 広告代理店って、いわば「何でも屋」

この本のおもしろさのひとつは、広告代理店は「何でも屋」と称されるほど、業務が非常に多岐にわたっているということを理解できる点です。こんなこともやるの? きっと、驚く人も多いのではないでしょうか。「連広」が関わった特徴的な事例を紹介しましょう。オリンピックにおける放映権の独占、1985年における科学万博のコーディネート、都知事選への介入、1984年のロサンゼルス・オリンピックにおける「大会スポンサー」制度への関与、オリンピックに協賛する企業のカネを選手育成などに回す仕組みとなる「がんばれ! ニッポン」キャンペーンの創出、ハイブリッドカー「ユリウス」の広告、ワールドカップ日韓共催の実現……。もうひとつのおもしろさは、第九代社長に就任する城田という人物の内面とリーダーシップ性を描き切っている点です。彼の特徴は、なんといっても、社員たちを震え上がらせる強面でした。ただ、一方で、人を引き込む不思議な魅力も兼ね備えていたのです。「ひとしきり怒鳴った後は、けろっとしている」人物でした。「難しいからこそやりたいんだ」と思う城田は、誰しもできなかった改革に挑戦し、「連広」を大きく発展させました。しかし、若い社員たちが極限に近い状況にあることについては「連広らしさ」だと捉えて、それを変革することはできなかったのです。そこが彼の限界だったと言えるでしょう。そんな城田の思いや葛藤が女性秘書の目線を軸にして描かれていることもまた、本書のユニークなところです。その女性秘書は倉澤真美。過労死した連広の社員・倉澤敏明の妻で、「夫は連広に殺された」と、憎しみを持って城田に接していた女性だったのです。

 

[あらすじ] 「帝王」と称された男の生涯

日本が統治していた時代の韓国、鉄道員という下級官吏の子として生まれた城田毅。「競争を勝ち上がることに人生の価値がある」と信じていました。その後、日本最大の広告代理店「連広」で頭角を現します。そして、取締役新聞局長や常務取締役を経て、1993年に第九代社長に就任する城田は、「剛腕」の名をほしいままにしていきます。常務就任以降、逆らう者や企業には、ひれ伏すまで徹底的に攻撃の手を緩めませんでした。各業界のトップ企業の広告は必ず独占しようと画策することや広告代理店第二位の弘朋社への圧力など、手段を選ばない強硬策で、リーダーシップを発揮。社長就任以後は、国際ネットワークの構築、新本社ビルの建設と移転、株式上場といった三つの目標を掲げて邁進します。

 

帝王の誤算 小説 世界最大の広告代理店を創った男

帝王の誤算 小説 世界最大の広告代理店を創った男