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『陸王』 - 零細企業と世界的なスポーツブランドとの熾烈なバトル

「経営者のリーダーシップを扱った作品」の第三弾は、池井戸潤陸王』(集英社、2016年)です。従業員27名の老舗足袋業者がランニングシューズ作りで、世界的なスポーツブランドとの熾烈な競争を展開。2017年10月期の日曜劇場(TBS系列)でドラマ化されました。主演は役所広司さん。

 

[おもしろさ] 小規模企業におけるリーダーシップのあり方

大企業の場合は、組織が大きく、業務の分担が明確になっています。そのため、かりにトップのリーダーシップが不十分なケースであっても、組織が動いていくところがあります。一方、小規模な企業にあっては、社長のリーダーシップは絶対不可欠なものとなります。しかし、強引なトップダウン型のやり方ではうまく回っていきません。明確な目標の設定と同時に、社内はもちろんのこと、社外の協力者を含めて情報・課題・志を共有することがより重要になってきます。幸いなことに、足袋業者の「こはぜ屋」には、老舗であるがゆえに、熟練工が揃っており、スキルのレベルが極めて高く、「自分の仕事に責任と価値」を見出していたという条件が整っていました。この本のおもしろさは、小企業における社長のリーダーシップのあり方を明示している点と、世界的なスポーツブランドとの熾烈な戦いの凄さを描いている点にほかなりません。ランニングシューズに新境地の開拓を目論んだ社長のリーダーシップは、どのように現実化されていったのでしょうか? 

 

[あらすじ] 勝つためには、できることはすべてやる

かつて足袋の町として知られていた埼玉県行田市にある老舗の足袋業者「こはぜ屋」。伝統という名のもとに新規の事業にチャレンジしなければ、いずれは破たんせざるを得ないにもかかわらず、なかなか新機軸を見出せない状況に留まっていました。しかし、四代目の宮沢紘一社長は、資金繰りに四苦八苦しつつも、取引銀行の銀行員のアドバイスに背中を押される形で、強みを生かした新規事業に取り組みます。それは、足袋製造の技術を生かして裸足感覚を追求したランニングシューズの開発でした。その名は「陸王」。世界的なスポーツブランドとの熾烈な競争、資金難、素材探し、開発力不足といった難題を、パートを含む従業員間の強い結束を軸に乗り越えようとします。「人生の賭けには、それなりの覚悟が必要なんだよ。そして、勝つためには全力を尽くす。愚痴をいわずに人のせいにせず、できることはすべてやる。そして、結果は真摯に受け止める」。物語は、宮沢社長が息子の大地に伝えるそのセリフのように進んでいくのです。

 

陸王 (集英社文庫)

陸王 (集英社文庫)