「運送会社を扱った作品」の第三弾は、楡周平『ドッグファイト』(角川書店、2010年)です。日本で最大手の運輸会社・コンゴウ陸送(資本金600億円、売上高1兆4000億円、従業員数14万人)と、グローバルに事業を展開する外資系ネット通販・スイフトとの壮絶な「ドッグファイト」(空中戦)が描かれています。
[おもしろさ] 「買い物難民の救済」・「商店街の活性化」も視野に
運送業界の課題として五点挙げておきます。①人手の確保(重い荷物を持って坂道を何度も上がり下がりする。客が不在なら、再配送となる。腰を壊す人間が続出する)。②給料の伸び悩み(古手のドライバーにいわせると、20年前に比べて、作業量は50%増えているのに、給料は10%減っている)。③売上は増えているものの、この数年は減益となっていること。④少子・高齢化が進展し、地方の過疎化も進んでいるので、内需依存型産業の最たるものである運送業の未来はけっして明るくはないこと。⑤時間指定、無料再配達なんてことをきめ細かくやっているのは日本ぐらいであること。本書の特色は、そうした課題を抱えながらも、とても簡単に結びつくとは思えない「買い物難民の救済」「商店街の活性化」「地方創生」といった時代のニーズに対応できるビジネスプランを構築することで、巨大なネット通販会社とも十分に戦えることを示している点にあります。
[あらすじ] スイフトのやり方に疑問を抱いた郡司
コンゴウ陸送の郡司清隆は、スイフトの配送利益率が著しく低いことに危機感を抱いていました。扱う量が多く、大幅なディスカウントを強いられているうえ、一社で全取扱量の3割を占めるほどになっているのです。営業部に異動し、スイフト担当課長になった彼は、スイフトの女性執行委員・堀田貴美子から、物量による料金改定とともに、生鮮食品の直売・当日配送を始める、つまりは「ネットスーパー」になるというプランを明かされます。取引量が増えるとはいえ、膨大な設備投資を強いられるその計画。スイフトのやり方に疑問を抱いた郡司は、買い物難民を救い、商店街を活性化する新たなプランを構想します。