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『日本ゲートウェイ』 - 「企業と地域の再生」が「日本の再生」と結びつくとき

「起死回生のビジネスモデルを扱った作品」の第三弾は、楡周平『日本ゲートウェイ』(祥伝社、2023年)。危機に陥った「老舗百貨店」、沈滞した「地域」、コロナ禍で苦境にあえぐなか、アフターコロナに向けての「備え」と「突破口」の構築が不可欠になりつつある「日本」という三つのレベルでの再生・活性化をめざすことができる驚愕のビジネスモデルが提示されています。『プラチナウン』で、東北の過疎の町を活性化させた立役者・山崎哲郎がここでも大活躍。

 

[おもしろさ] 物語を盛り上げてくれるいくつもの要素

本書の魅力は、企業・地域・日本という三つのレベルでの再生を結びつけるビジネスモデル―「地方のアンテナショップを全部集めてセレクトショップを仕立て、日本観光のゲートウェイ(出入口)にし、さらには海外でも展開する」という新事業―がどのようなプロセスを経て、創られていくのかという点をドラマティックに描いている点にあります。その過程で不可欠な要素となり、物語を大いに盛り上げてくれるのが、①ヒント―アイデアが浮かび上がる際に念頭におかれた高知にある「酒飲み用の市場」(フードコート)=「ひめの市場」の存在と、これまでは各自治体がリードして行ってきたアンテナショップにおける経験、②考え方―恩恵にあずかるのは、出店した店と食材納入業者だけではなく、地方にもっと大きな恩恵をもたらすことができるビジネス、③資金提供者―総合商社の四井商事が絡んでくるための仕掛け、④対抗馬―小売じゃなく、商業ビルへ百貨店の業態転換を図るプランとの対決、⑤日本経済への貢献―インバウンド需要を確かなものにしたり、国内の伝統工芸品や食材などの活用を促進したりと、国全体の活性化につなげていく必要性などのファクターです。

 

[あらすじ] 悩む人たちへの解決策から生み出された壮大なプラン

「全店舗が一カ月ごとに入れ替わる」という前代未聞の「ポップアップレストランビル」を開設した「築地うめもり」。コロナ禍で経営が圧迫されているにもかかわらず、梅森大介は、部下の滝澤由佳とともに、アフターコロナの新事業をどうするのかで悩んでいます。「プラチナタウン」と称されている宮城県緑原町の燻製工房は、自慢の商品をいかに宣伝すればいいのかで悩んでいます。明治時代に創設された百貨店業界の老舗「マツトミ百貨店」(従業員約1000名)の富島栄二郎社長と富島幸輔副社長(栄二郎の妹である寿々子との結婚で富島家に婿養子になった)は、頼みの綱であった東亜銀行から融資を断られたことで、深刻な事態にどのように対応するべきか、悩んでいます。ある日、総合商社四井商事の専務・徳田創は、憔悴しきった富島栄二郎の姿を見かけます。富島は若い頃四井で修業したことがあり、二人は同期だったのです。マルトミの窮状を聞いた徳田は、同じく同期で、「プラチナタウン」を作った山崎哲郎を、富島に紹介します。山崎は、マツトミ百貨店の再生を、「築地うまもり」や「燻製工房」の活性策とも結びつけ、大掛かりなビジネスモデルに仕立て上げていきます。