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『小説 火ノ国銀行 第2弾 パニックバンク』 - 地銀権力者が生み出す「負の連鎖」

「地域金融機関を扱った作品」の第二弾は、中村仁『小説 火ノ国銀行 第2弾 パニックバンク』(兼六館出版、2011年)です。九州中央部を地盤とする「火ノ国銀行」を舞台に、独裁者として君臨し、「負の連鎖」を引き起こすことになる男の「悲しい性」が浮き彫りにされています。地銀の実態がクリアに描かれています。火ノ国銀行を私物化しようとする権力者(頭取、のちの常任顧問)と地元優良企業の工務店経営者との死闘を描いた『小説 火ノ国銀行』の続編です。

 

[おもしろさ] 独裁者の「悲しい性の話」

この本の魅力は、火ノ国銀行を自分の意のままに操ろうとする権力者の考え・行動が余すところなく描かれている点にあります。当事者にとっては「きわめて恐ろしい話」になるのですが、読者に対しては「悲しい性(さが)の話」と映るのではないでしょうか? 

 

[あらすじ] 地元企業を育てることへの無関心

九州北部では博多銀行が圧倒的なシェアを有し、南部では薩摩銀行が優勢を保っています。そうした二行と競争しながら、中央部で大きなシェアを持っていたのが、火ノ国銀行でした。同行を牛耳っていた長門祐二頭取のワンマンぶりは、徹底しています。同行の行員たちは、彼の恐怖政治に恐れおののいていたのです。銀行を思い通りに動かし、自分の懐を肥やすことに全精力を投じた長門には、地元の企業を育てることなどには無関心でした。いったん常勤顧問になったものの、依然として大きな影響力を行使し続けた長門。ところが、1年前に脳梗塞を患い、身体が麻痺して寝たきり状態になったことで、頭取の地位は、長門の娘婿の梶光男に委ねられることになります。それまで、長門の押しで出世し続け、ついに頭取の座を獲得した梶は、自らの存在感を誇示することで行員たちを意のままに動かそうとしたのです。「コツコツと物事に当たるより、一発で大きな成果を得ようとするタイプ。常に上から目線で自己中心、相手の立場に立つということができない」。そんな人間がトップになるのですから、末恐ろしいことになっていくのでしょうね!