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『新任巡査 下巻』 - 優秀な女性巡査を苦しめてきた過去の秘密

「交番を扱った作品」の第二弾は、古野まほろ『新任巡査』下巻(新潮文庫、2016年)。上巻からの延長で、新任巡査が交番勤務を行う際の様子や指導役となる上司との絡みが詳しく、かつ具体的に解説されています。ただ、上巻の主人公である上原頼音は、誠実で真面目だが、仕事のスピードは遅く、ミスも多い、なにかにつけ、「うじうじ考える」という、どちらかと言うと、ごく普通の人間に近いキャラクター。それに対して、下巻の主人公・内田希の方は、別格とも言えるほど優秀である反面、「人の気持ちを読んだり、調子を合わせたり、媚びを売」ったりすることができない人間。それは、彼女自分自身も正確には記憶していなかった壮絶な過去の出来事と深くかかわっていたのです。

 

[おもしろさ] ライトとアキラ:指導も助言も同じではない

ここでも警察官のいわば代表的な定番業務のひとつである職務質問のシーンが出てきます。しかし、常識的なライトとは異なり、特別な能力を有しているアキラの場合、職質のやり方や、上司の指導・アドバイスの仕方には、かなりの違いが認められます。本書の特色のひとつは、そうしたライトとアキラの違いを楽しみながら読み進めていける点にあります。そして、もうひとつの点は、アキラがかつて自らに決定的なダメージを与えた人物と遭遇し、その人物の隠された秘密に迫っていくショッキングな展開の描写にあります。

 

[あらすじ] アキラと早蕨警部補のやり取りと通して

愛予駅西口交番に配属された内田希。職務質問で、一人当たり30分も費やし、対象者を片っ端から激昂させてしまった経験の持ち主。しかし、ここには、東口交番の赤間警部補と並ぶ「一流の警察官」であり、「職質の生き字引」とも称される早蕨係長(警部補)がいました。てきぱきとしたアキラの受け答えに、「前から聴いとったけど、なかなか筋がええね」と早蕨。でも、見当違いな発言には、「ちゃうちゃう。それはちゃうで」と答えます。また、「怒らせてええことは何ひとつ無い」、「やって覚えるしかないんです」と諭すことも。アキラが発するホンネの質問の数々にひとつひとつ、丁寧に答えていく早蕨。そして、いったん職質の主導権を委ねると、できる限り、アキラの自主性を尊重。アキラのことを理解しながら、「基本」を学ばせていきます。そして、アキラは、「初当務で、初検挙」という快挙をやってのけることに。終盤に至ると、少女連続行方不明事件、愛予警察署内にある「開かずの間」の噂、事件真相解明に迫るライトとアキラに対する真犯人による攻撃、驚愕の真犯人の特定という形で、物語が急展開!