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『マイ・ディア・ポリスマン』 - 交番に勤務する巡査の日常

「交番を扱った作品」の第三弾は、小路幸也『マイ・ディア・ポリスマン』(祥伝社文庫、2020年)。架空の町・奈々川市坂見町にある東楽観寺前交番に赴任して2カ月が経過したお巡りさん(ポリスマン)の宇田巡。同寺の跡取り息子で副住職でもある大村行成。小学校の同級生で親友だった二人の交流を軸に、巡査の仕事や役割が描かれています。そして、日常のなかで起こる小さな事にも目配りを怠らないという警察官の「能力」に触れられています。「マイ・ディア・ポリスマン」シリーズの第1作目。

 

[おもしろさ] 人の嘘やごまかしや狼狽や怯えを感じて見抜く

交番に勤務する地域課地域対策係の警察官の役目は、「市民の安全を守り、犯罪を防止し、あらゆる事故を未然に防ぐ努力をすること」。そのために大切なのは、「人をよく観察すること」。そういう訓練をして目を養い、観察することで、その人がどういう人物なのかを推察することができるようになります。また、「人の嘘やごまかしや狼狽や怯えやそういうものを感じて見抜く能力(眼力)」も培われるのです。地域住民との触れ合いもまた、重要な仕事にほかなりません。パトロールカーもあるわけですが、移動には火急の用事でなければ、極力自転車が使われます。その方が地域の様子がよくわかるからです。本書の特色は、「ちゃんと毎日を頑張って暮らしている普通の人たちの、生活を守ろうと頑張る普通のお巡りさん」の日常と仕事が随所で説明・解説されている点にあります。

 

[あらすじ] なにか事が起これば、その原因を調べる気持ちの持主

警察学校を卒業し、警察のなかでも花形みたいな部署である捜査一課に配属され、刑事としてその有能さを発揮したにもかかわらず、なぜか、東楽観寺前交番に配属されることになった宇田巡巡査。童顔だけど、カンの方は、超一流のおまわりさん。たとえ小さいと思えるかもしれないことでも、なにか事が起これば、その原因を調べる気持ちを持ち合わせている人物なのです。意外に早く仕事・地域に溶け込めたのは、大村行成や、彼の両親のおかげです。ある日、交番の前で話をしていた巡と行成が目にしたのは、電信柱の影に隠れて、こちらの様子をうかがっているセーラー服の女子高校生の楢島あおい。彼女から、交番のお巡りさんを主人公にマンガを書きたいので、制服姿の写真を撮らせてほしいと依頼されます。「観察眼には長けている」ことを自負する巡は、外見だけではなく、内面も強い女の子であると判断し、彼女の被写体になることを快諾。撮影を終えたあおいは、親友の鈴元杏菜と一緒に立ち去った後、そばのベンチの上に、女物の財布があること発見します。財布は、なぜそこにあるのか、だれかが忘れたのか、それとも意図的におかれたのか? 調べていくうちに、巡は、あおいが祖母から受け継いだある特殊な技を使ったことに気づいていきます。