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『当確師』 - 当選確率99%を誇ってきた辣腕選挙コンサルタント

「選挙請負人を扱った作品」の第二弾は、真山仁『当確師』(中央公論新社、2015年)です。当選確率99%を誇ってきた辣腕選挙コンサルタントの名前は聖達磨。選挙コンサルタントが選挙期間中に介入してアドバイス料を受け取った瞬間、公職選挙法違反で逮捕される可能性があります。そのため、聖のビジネスも公示前が勝負。描かれているのがもっぱら公示前の動きになるのは、そのためです。

 

[おもしろさ] 盤石と言われる現職を叩き潰すことこそ、当確師の……

当確師としての聖達磨の興味は、盤石と言われる現職を叩き潰すこと。そこには、「選挙で、この国を浄化する」という彼なりの哲学があります。民主主義の根幹は有権者。政治なんてなにをやっても変わらないと、有権者にあきらめさせないことが大切だからです、だから、彼が引き受けるのは、人間力と行動力を有した人物に限られます。今回の舞台は政令指定都市の高天市長選挙。さらに、サポートすることになる候補者までも、聖が選ぶことになります。この本のおもしろさは、そうした選挙コンサルタントの緻密なアクションが選挙戦の大きな流れをドラマチックに作り出していく様子を描いている点にあります。

 

[あらすじ] 市長選におけるオモテの構図とウラの構図

高天市長選挙では、三選をめざす現職の鏑木次郎(元検事)が圧倒的有利。それが前評判でした。高天市では、7年前に前市長の不正をただすと宣言して、鏑木が市長選に出馬して僅差で初当選。その後、市政の浄化と刷新に着手し、企業誘致や国際交流にも力を注ぎ、成功事例となる自治体の首長となっています。そのため、いまや、鏑木には、奢り・高慢さが漂うように。妻の鏑木瑞穂は、小早川財閥のリーダーでした。鏑木の選挙コンサルには、聖の元妻である三枝操がついています。彼女の口癖は、「選挙に争点を作るな」ということ。現職が有利になるからです。他方、選挙コンサルの依頼主である「鏑木次郎市政の暴走を阻止する会」の代表は、選挙のたびに聖がコンサルタントを務めてきた衆議院議員の大國克人。聖が候補者として考えたのは、1歳の時に聴力を失ったものの、地に足の着いた活動をしていた黒松幸子。手話通訳に「誠実だけが取り柄の高天一の御曹司」である小早川選を起用し、それに伴う「化学反応」に期待を込めたのです。対抗する鏑木陣営は、黒松と小早川選の両者に盗聴器を仕掛け、スキャンダルを探し始めます。こうして、スパイ、身内の分断、裏切り、フェイクニュースなどに彩られた、まるで「戦争」のような熾烈な選挙戦が本格化していきます。

 

当確師 (中公文庫)

当確師 (中公文庫)