企業が特定のスポーツを支援する理由は、そのスポーツの実力向上、従業員の士気高揚、企業イメージの向上や知名度アップといった広報効果、社会貢献など、多様です。しかし、企業の業績は、企業内外のさまざまな要因によって浮き沈みを伴います。その結果、企業スポーツは、業績の変動に大きく左右され、休廃部のリスクを持ち続けることになります。それは、企業スポーツにとってのいわば宿命なのです。また、国際的に見た場合、企業スポーツが盛んなのは、日本を除けば、韓国と台湾ぐらいであるという点も、興味深い事実と言えます。そこで、「企業スポーツを扱った作品」を二つ紹介したいと思います。
「企業スポーツを扱った作品」の第一弾は、池井戸潤『ノーサイド・ゲーム』(ダイヤモンド社、2019年)です。ラグビーに関する知識も経験もないズブの素人が、社会人リーグに属するラグビー部のゼネラルマネージャー(GM)に就任し、「お荷物」とみなされていたチームの再建に挑みます。2019年7月7日にスタートしたTBS日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』の原作本です。ドラマの初回、大泉洋さん扮する主人公が何度も何度もタックルを試みる姿が目に焼き付いています。
[おもしろさ] ラグビーの醍醐味と企業スポーツの宿命が交差する!
本書のユニークさは、ラグビーというスポーツの魅力・醍醐味、景気変動やオーナー企業の業績に左右される企業スポーツの宿命、社会人リーグを統括する日本蹴球協会という組織の旧態依然の考え方や「事なかれ主義」などについて、エンターテインメント性を全開にして描いている点に尽きるでしょう。特に、「大企業のお恵みにすがってなんとか生きているに過ぎない」にもかかわらず、危機感に乏しく、怠慢で傲慢な態度を堅持し続けている日本蹴球協会に対して、厳しい視線が注がれています。
[あらすじ] しがらみがなく、素人であるがゆえの試みが
大手自動車会社・トキワ自動車のエリート社員であった経営戦略室次長の君嶋隼人。将来の社長候補と目されている滝川桂一郎常務が推進する大型買収案件に異を唱えたことで、横浜工場の総務部長に左遷され、同社ラグビー部アストロズのゼネラルマネージャーを兼務することに。アストロズは、かつては日本蹴球協会傘下の社会人ラグビーの最上位リーグであるプラチナリーグに所属する強豪として知られていました。ところが、いまや成績不振に喘ぎ、約16億円という巨額の赤字を垂れ流し続けています。一方では、会社からの廃部要請を受けつつ、他方では、上部団体である日本蹴球協会の旧主的な体質ゆえに、改革しようにもままならないという制約のなか、チームの再建にもがく君嶋。親子ラグビー教室、ジュニアチームの創設、ボランティア活動の展開など、しがらみがなく、ラグビーの素人であるがゆえの発想で、新監督・柴門琢磨とのコンビで新たなチャレンジを行っていきます。企画部・営業推進本部・経営戦略室で苦労した22年間に、君嶋は、確かに「経営戦略のプロ」としての資質を培っていたと言うことができるのです。