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『会社葬送』 - 山一證券の最後を看取った男たち

「証券会社を扱った作品」の第四弾は、江波戸哲夫『会社葬送 山一證券最後の株主総会』(新潮社、2001年)です。1897年に創業され、野村、大和、日興とともに「四大証券」の一角を担っていた山一證券。ところが、損失補填や「にぎり」など、相次ぐ不祥事を重ねた結果、経営を悪化させ、百年目の1997年に自主廃業を余儀なくされます。全員が実名で登場するこの本は、山一證券終局までの激動の200日間を追いかけたドキュメンタリー小説です。主人公でもある永井清一と増山三男から提供された多くの資料と証言をもとにして本書が出版されています。

 

[おもしろさ] 崩壊の理由、幕引きの過程、当事者の苦悩

本書の特色は、山一證券を崩壊に追い込んだ理由はなんだったのか、同社の幕引きの過程とはいかなるものだったのか、そして、それを担わされた人たちの苦悩とはどのようなものなのかを克明に描いている点にあります。

 

[あらすじ] たとえ困難な業務でも誰かが担わないと……

永井が山一崩壊の予兆を初めて感じたのは、バブル期に利回りを保証(「にぎり」と呼ばれる)した「営業特金」という「お化け」でダントツの成果を上げていた頃に遡ります。バブルが崩壊しても、昔通りに「三日三月三年」(株価が大幅に下がっても、あわてて売り買いをせずに株をしばらく寝かせておけば、また元の値に戻るという意味)を信じて、「もう底だろう」という期待から傷口が拡大。山一のトップは極秘に、膨大な含み損をどのように処理するのかについて悩まされるようになります。傷口が一層大きくなるなか、96年8月、新社長に就任したのは、営業しか知らず、本部を経験していない、人格温厚なだけの野澤正平でした。97年10月1日に52歳で山一最後の総務部長になった永井に課せられた最大の仕事は、大荒れが予想されている株主総会をいかに円滑に乗り切るかという点でした。それまでは、与党の特殊株主がうまく総会をリードしてきたのですが、今度は彼らといかに対処するのかが問われるようになります。が、議長を務める野澤正平は、そうしたことにはまるきり苦手。それでも、困難を乗り越え、誰かが幕引きを図っていかなくてはなりません。四面楚歌のなか、株主総会に向けての準備作業は着実に進められていきます。