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『投資アドバイザー有利子』 - 自己責任+リスクへの覚悟+アドバイス=資産運用

「証券会社を扱った作品」の第五弾は、幸田真音『投資アドバイザー有利子』(角川書店、2002年)です。顧客目線で資産運用の相談に乗ってくれる財前有利子(ざいぜん ありこ)のプライド・信念・生きがいが描写。また、運用されている金融商品、デイ・トレーダー、スリリングなデリバティブの実例、「気まぐれな生き物」のようなマーケットに翻弄される人々の姿、顧客を食い物にしようとする米国系証券会社の姿勢-「たとえ直後に下がるのが明らかなときでも、客に買わせることができる。それこそセールスの神髄でしょう」「決めるのは客側よ。客の自己責任だわ」-などにも言及されています。資産運用には、自己責任という考え方、リスクへの覚悟、適切なアドバイスという三つの要素が不可欠であることがよくわかります。

 

[おもしろさ] 資産運用には、適切なアドバイザーが不可欠! 

いまでは1900兆円に達している日本の個人金融資産ですが、銀行預金や郵便貯金などの貯蓄に片寄っているのは周知の事実。超低金利が続き、閉塞感ばかりの世の中で、個人の資産をいかに運用していくのかは、大きな国民的課題のひとつと言っても過言ではありません。「一度しっかりと自分のお金について考えておくことが、いままで以上に必要な時代になってきている」のです。ところが、資産運用の世界は、それなりのリスクを覚悟しないと入っていけない領域でもあります。しかも、顧客の立場に立ってちゃんと相談に乗ってくれるところを探すのも結構難しいのです。そこで、本書に登場する「投資アドバイザー有利子」の存在感が際立ってきます。では、顧客目線のアドバイザーとは、どのようなスタンスで顧客と向かい合うのでしょうか? その点を知ることができるのが、本書の魅力と言えるでしょう! 

 

[あらすじ] 覚悟を決めた客には、責任を持って対応する

ふたば証券の窓口で活動する財前有利子。喧嘩早いが、涙もろくて人情家の彼女が資産運用の願望を持った人々の味方として、持ち前の正義感を発揮し、さっそうと難問を解決していきます。市場というのは実に気まぐれなものです。投資したお金が1週間で倍になることもありえるのですが、それはタイミングが良かったか、ラッキーだったからにすぎません。それゆえ、①期限を限定して資産運用をしたい客、②リスクをとりたくないと考える客、③元本を絶対に1円も目減りさせたくないが、一定の収入を確保したいと考えている客などには、そうした市場の気まぐれさを指摘して、引き受けない有利子。他方、覚悟を決めた客には、情報をきちんと分析し、責任を持って対処するのが彼女のモットーなのです。