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『監査役 野崎修平』 - 銀行の悪弊に挑む監査役

「銀行を扱った作品」の第二弾は、横幕智裕(原作:周良貨、能田茂)『監査役 野崎修平』(集英社文庫、2018年)です。「銀行は晴れの日にムリヤリ傘を貸し、雨が降ったら取り上げる」という言葉通り、「貸し剥がし」や「貸し渋り」は、銀行の姿勢を厳しく批判するシンボリックな言葉として定着。1997年の大手金融機関の破たん・廃業を受けて、1998年~2003年に12兆円余りの公的資金が投入されたことも、銀行に対する世間の目をさらに厳しいものにしています。ところが、大手都銀「あおぞら銀行」の役員たちは、危機感に乏しく、悪弊や既得権にメスを入れようとはしません。本書は、監査役という立場から、そうした銀行のあり方を批判し、あるべき姿を追求していこうとする主人公・野崎修平の活躍を描いた作品です。2018年1月14日~3月4日に、WOWOWで放映されたドラマ『監査役 野崎修平』(主演は、織田裕二さん)の原作に相当するのが、本書および漫画『監査役 野崎修平』(集英社、全12巻)です。続編には『頭取 野崎修平』があります。

 

[おもしろさ] 内心ではビクビクしながらも……

1998年当時、金融業界は、バブル崩壊の影響を受け、混迷の真っただ中にありました。バブルの時代にあっては、ヤバイと言えば、多くがヤバイ案件だったのです。当然、その後遺症も半端ではありませんでした。銀行の信用を取り戻すためには、「危機感を持って体質を変え、それを内外に公表する姿勢」が必要だったのです。反面、不正を公表することは、世間やマスコミには、スキャンダルとしてマイナスの受け止め方をされるリスクを高めてしまいます。それでも、野崎は、困難な仕事を一歩一歩前進させていきます。本書の魅力は、内心ではビクビクしながらも、企業悪に真っ向から挑む正義感の強い男、人情味にあふれた優しい男、自然体でふるまえる男の姿が凛々しく描かれている点にあります。

 

[あらすじ] 「派閥もない、金もない。影響力もない」

あおぞら銀行巣鴨支店長の野崎修平48歳は、支店の閉鎖に伴い、監査役に就任。監査役の主な仕事は、取締役の「業務監査」と「会計監査」を行い、職務執行に違法性がないかをチェックすることです。すでにいた楠木監査役と平賀監査役という二人の常勤監査役は、やる気がまったくありません。あおぞら銀行では、出世コースから外れた者たちの名誉職、それから先を望めない「あがり」のポジションであったからです。一方、野崎は、就任当初から、高級車での送り迎え、役員専用のフロア・ラウンジ・食堂・料亭・ゴルフ会員権などを、役員の危機感をそいでしまう無駄使いのシンボルとして感じざるをえませんでした。「私は変えていくつもりです」と、つぶやきます。不可解な高額融資、役員の派閥争い、総会屋や政治家との癒着など、多くの問題を抱えるあおぞら銀行。さまざまな抵抗やいやがらせ(上司からの調査に対する干渉、鉄パイプによる攻撃、協力者の部下の左遷)などを受けつつも、頭取からの「思う存分調べてください」という言葉に後押しされて、野崎は、銀行内の不正や経営問題にメスを入れていきます。「派閥もない、金もない、影響力もない」野崎。銀行立て直しのための奮闘が続きます。