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『夢を喰らう』 - 「夢と魔法の王国」を作り上げた「土地の錬金術」

2019年のゴールデンウィークは、5月1日に皇太子殿下の即位式が行われることで、4月27日(土)から5月6日(月・振替休日)までの10連休となります。行楽地は、どこも大賑わいとなることでしょう。そこで、「遊園地・娯楽施設を扱った作品」を四回に分けて紹介します。もし、あなたがそれらに登場する施設に行かれるのであれば、一読されてはいかがでしょうか? それまでとは異なった視点で見えるものがあるかもしれません! 

「遊園地・娯楽施設を扱った作品」の第一弾は、本所次郎『夢を喰らう 大テーマパーク騒動記』(徳間文庫、1999年)。この小説は、東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドをモデルに、その創設に至るまでのウラ事情を描いた作品です。

 

[おもしろさ] 大成功を予想できた人はいなかった?!

いまでこそ、日本最大のテーマパークとなっている東京ディズニーランド。開園したのは、1983年4月のことです。そして、一周年を待たずして、入園者は1000万人の大台を突破しました。ちなみに、2018年における東京ディズニーリゾートへの入園者数は3255万人を超えています。しかし、1960年に遊園地の造成経営を目的として、オリエンタルランドが設立されたとき、当の関係者を含めて、のちに「夢と魔法の王国」と称される遊園地が開園し、大成功することを予想する者など、まったくいなかったようです。本書を読めば、この「夢の国」は、まかり間違えば住宅分譲地になる可能性が大であったことがよく理解できます。もし「土地は値上がりするという土地神話」による錬金術とともに、「夢と魔法の王国」を作りたいという高垣正人(オリエンタルランド社長高橋政知がモデル)の精力的な活動がなかったならば……。

 

[あらすじ] いかにも人間臭いヒューマンドラマが……

高度成長期が始まった頃、千葉県はまだ貧乏県でした。東京湾岸の埋め立てに積極的に取り組み、工場などの誘致計画を進めていました。その頃、京葉電鉄の社長に就任したばかりの川本千秋は、1955年に開園したデージーランド(ディズニーランドがモデル)を日本に誘致したいという夢を描きました。問題は土地でした。そこで、松阪不動産の社長井戸英俊の協力を仰ぎ、広大な浦安の「大三角州」の埋め立て工事に着手することとなりました。こうして、1960年にドリームランド社を創設。レジャー事業の立ち上げだけではなく、住宅地・ビル用地の開発も視野に入れての発足でした。初代社長は川本でしたが、実質的なリーダーは、埋め立ての発案者である藤田虎太郎専務でした。しかし、不動産屋・地上げ屋どまりの器であった藤田では、夢のプロジェクトには不適格だと判断した川本は、高垣正人に目を付けました。幾多の困難を乗り越えて、デージーランドの開園を主導した人物でした。高垣が直面した困難とは、どのようなものだったのでしょうか? 浦安の埋め立て工事を完成させるには、まず漁民相手の交渉が不可欠でした。その後も続いたのは、デージーランドの建設に消極的な松坂不動産社長壺田進との確執、千葉県の知事や県会議員との粘り強い交渉・根回し、提携先外資との難交渉など。それらをどのように乗り越えていったのでしょうか?