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『遊園地に行こう!』 - 閉園の危機から脱出し、奇跡の復活を遂げたワケは! 

「遊園地・娯楽施設を扱った作品」の第三弾は、真保裕一『遊園地に行こう!』(講談社、2016年)です。遊園地の魅力を維持しようとするスタッフたちの懸命な努力と多岐にわたる工夫を描いた作品です。

 

[おもしろさ] 東京ディズニーランド大成功の陰で

東京ディズニーランドをモデルにした作品を二つ紹介しましたが、その創設は、日本の遊園地に衝撃的な影響を与えました。従来の遊園地の多くは、「背の低い観覧車や、恐竜の鳴き声めいた音を放つジェットコースターに、小さな動物園をあわせ持つ貧相な遊園地」でした。それでも、子どもたちは、遊園地にあこがれ、親にせがんで夢のような一日を楽しんだのです。ところが、ディズニーランドが創設され、その洗練された娯楽性と独自な運営スタイルが子どもたちだけではなく大人たちにも受け入れられるようになりますと、昔ながらの遊園地は苦戦を強いられるようになりました。この本の舞台となるファンタシア・パークも例外ではありませんでした。この本には、閉園の危機から脱出し、奇跡の復活を遂げた「秘策」が隠されています。

 

[あらすじ] キャラクター戦略と「おもてなしの心」

閉園の危機に直面したファンタシア・パーク。再浮上の契機になったのは、かつてマンガ雑誌の名編集長として名をはせた加瀬耕四郎のリニューアル計画でした。提案されたのは、元妻の小島さやかが勤務する大手広告代理店でした。加瀬の計画の骨子は、キャラクターを印象付ける戦略。あれから25年が経過し、ファンタシアは奇跡の復活を遂げています。そこに登場するのは、50歳を過ぎてからアルバイトを始めて、2年しかたっていないのに、アルバイトのリーダー格となり、「魔女」という異名を持つ謎の女性・及川真千子のほか、顔に傷を持つアルバイトの北浦亮輔、契約ダンサーの新田遥奈、社員の前沢篤史などの訳あり人物。彼らの活動・考え・悩みなどが描かれていきます。そのなかで、本当に、ここまでやるかと感心させられるほどに、来園者(パッセンジャー)に楽しんでほしいという従業員(パル)たちの「おもてなしの心」、「士気と誇りと工夫」が浮き彫りにされていくのです。

 

遊園地に行こう! (講談社文庫)

遊園地に行こう! (講談社文庫)