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『配達あかずきん』 - 本、書店、書店員、書店経営を考える

「出版不況」「ネット書店や電子書籍の台頭」「改善しない書店の閉店数」「本屋のない地方自治体の増加」といった言葉に示されるように、書店を取り巻く環境は、非常に厳しいと言わざるをえません。「もっぱら本という商品だけを、総花的に陳列・販売するという従来型の書店のビジネスモデル」では、これからの時代の荒波に対応できなくなりつつあります。とはいえ、生き方・楽しみ・ビジネスなど、人々の人生にさまざまな影響を与えてきた本の魅力自体は、けっして色あせているわけではありません。むしろ、混迷さが増していくという事態に備えて、本の存在価値をこれまで以上に高めていくことが求められているように思われます。そこで、今回は、本の魅力、書店の存在意義、書店員の業務、書店経営の新たな可能性について考えさせてくれる三つの作品を紹介します。

「書店を扱った作品」の第一弾は、大崎梢『配達あかずきん 成風堂書店事件メモ』(創元推理文庫、2009年)。駅ビルの6階にあるごく普通の書店・成風堂を舞台に、しっかり者の店員・杏子と勘の鋭いアルバイト店員・多絵のコンビが、「日常の謎」の真相に迫る「推理小説」。書店員の業務を描いたお仕事小説でもあります。長らく書店員として勤務した著者のデビュー作。なお、この「成風堂書店事件メモ」はその後シリーズ化されていきますので、本書はシリーズ第一弾となります。

 

[おもしろさ] 杏子と多絵による謎解きの妙味を満喫しながら

推理小説と言うと、一般的には殺人などの犯罪・事件の謎解きがイメージされがちです。が、日常生活のなかにも多くの謎や不思議があり、それらの真相の追求もまた、読者を大いに楽しませてくれることもまた、事実なのです。本書のユニークさは、「書店ミステリー」と称されているように、本屋の業務と密接に絡み合ったところで生じているそうした謎が解き明かされていくプロセスの妙味にあります。杏子と多絵による謎解きのおもしろさを満喫しながら、本の魅力や本屋の存在意義についても気づかせてくれる。そんな作品です。

 

[あらすじ] 本屋の日常のなかから生じる謎と不思議の数々

成風堂の日常のなかで杏子が直面する謎とは? ①近所に住む寝たきり状態のお年寄りから渡された「あのじゅうさにーち いいよんさんわん ああさぶろうに」という、「日本語になっていない」不思議な「購入希望書のリスト」、②普段漫画を買わない年配の女性がコミック『あさきゆめみし』の購入後に失踪、③店員が配達したばかりの雑誌に挟まれていた盗撮写真、④近くの病院に入院していたとき、本を差し入れてくれた母親に適切なアドバイスをしてくれた「店員」がいて、お礼を言いたいという人が来店したのですが、そんな店員はいないということが判明。謎解きに挑もうとする杏子には、常に心強い味方がいました。多絵です。彼女は、不器用なところがあるものの、パズルめいた分野での感が鋭く、発想力も豊かで機敏が利く女子大生です。