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『ヘブン』 - 「半グレ集団」と暴力団

「闇ビジネスを扱った作品」の第二弾は、「半グレ集団」を素材にした新野剛志『ヘブン』(幻冬舎、2018年)です。東京を牛耳ろうと、後ろ盾となっていた暴力団に歯向かい、失敗した「半グレ集団」。そのナンバー2の男が、主に覚醒剤ビジネスでの覇権をめざして復讐劇を演じます。『キングダム』の続編。

 

[おもしろさ] 闇ビジネスの実態

特殊詐欺、闇金融貧困ビジネス、クラブの経営、出会い系サイトの運営などを、シノギ(資金獲得活動)として行っている「半グレ集団」。非合法もしくは「グレーゾーン」の行為を行っていると考えられているものの、暴力団には属さないため、暴力団対策法の適用を受けることがありません。なぜ「半グレ集団」が生まれたのでしょうか? この本では、近年、やくざになりたがる若者が大幅に減少していることを危惧した暴力団が、若者たちが憧れるような犯罪者集団を作り、自分たちのビジネスの手伝いをさせるようになったと指摘されています。本書のユニークさは、そうした「半グレ集団」や暴力団の「シノギ=闇ビジネス」の実態(数少ない安定的な収入源である覚醒剤のほか、売春斡旋、高額当籤金詐欺、特殊詐欺、マネーロンダリングなど)、「半グレ集団」と暴力団との関係・抗争などを描き出している点にあります。

 

[あらすじ] 暴力団への復讐劇。その根底には……

リーダーであった城戸崎正吾が、指定暴力団烈修会の直参、市錬会幹部の意を受け、暴走族OBを結集して作り上げた「半グレ集団」の「武蔵野連合(通称ムサシ)」。ところが、東京の裏社会で大きな影響力を有するようになり、制御が利かなくなってきたため、城戸崎を動かし、今度はムサシを潰そうと画策。4年前、現役暴走族「毒龍」との乱闘とその最中での殺人事件をおぜん立てし、主要メンバーの服役もしくは海外逃亡を余儀なくさせたのです。こうして武蔵野連合は解体。ナンバー2であった主人公の真嶋貴士は、海外に逃亡。タイのジャングルで麻薬王トレインと出会います。彼に詐欺の手法を披露して、大きな収益を上げたことで、トレインの信頼を勝ち取った真嶋。さらに、タイ国内での覚醒剤が頭打ちになっている現状を変えるために、トレインに覚醒剤の販路を海外に広げること、東京において「供給元からそれを直接仕入れ、市場で販売するという役割」をやくざから奪い取ることを提案。合意を得たうえで、日本に帰国。「狂気の計画」を立案して、覚醒剤ビジネスの覇権を掌握するべく、暴力団に挑むことに……。真嶋の企てた復讐とは、どのようなものだったのでしょうか?