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『突破口』 - マネロンの捜査はこのように! 

マネーロンダリングを扱った作品」の第三弾は、笹本稜平『突破口 組織犯罪対策部マネロン室』(幻冬舎文庫、2015年)。マネロンという犯罪行為を取り締まる側から描いた作品です。マネロンという経済行為を扱った経済小説であるとともに、警察の捜査活動を描いた警察小説であり、刑事というお仕事を描いたお仕事小説でもあります。

 

[おもしろさ] 警察組織のオモテとウラ

いまや、複雑化し、巨大化する犯罪に対し、旧態依然のタテ割の警察組織では対応できない。そこで、横断的に取り締まることを目的に新設された「組織犯罪対策部」。ところが、その組織は、マル暴担当で名を馳せた刑事部の捜査四課、外国人犯罪を担当する国際捜査課、生活安全部の銃器薬物対策課、集団密航や海外への不正送金を取り締まる公安部外事特捜隊、旅券やカードの偽造や地下銀行の取り締まりを行う生活安全部国際組織犯罪特捜隊などによる寄り合い所帯。捜査の仕方やキャリアがまったく異なり、ときには、捜査や事情聴取のやり方をめぐって、内輪もめさえ起こりかねない状況が続いていたのです。なかでも、暴力団担当の四課とマネロン室の面々の間には、大きな溝がありました。本書の魅力は、そうした寄せ集め集団としての限界・制約のなかで葛藤しながら、マネロンの捜査だというブレない軸のもと、主人公たちがマネロンの仕組み・ルートの解明に肉薄していくストーリー展開と、警察という巨大組織のオモテとウラの描写に凝縮されています。刑事としての最大の力量も、やっぱり人間力にあることがよく理解できます!

 

[あらすじ] 政財界の「影のボス」的人物の狡猾さ

物語は、外為法違反で指名手配中だった、共生信用金庫の職員・宮本弘樹の遺体が埼玉県飯能市の山林で発見されるところから始まります。連絡を受けた組織犯罪対策部マネーロンダリング対策室に属する樫村恭祐警部補と相方の上岡章巡査部長は、現場に直行します。なぜならば、宮本が扱っていたとされる資金は、主に密輸入された覚せい剤の代金だと考えられていたからです。当初は自殺と思われていたのが、ほどなく他殺と判明。殺したのはだれか? 宮本の行為は一個人のものか、それとも組織なものなのか? 共生信用金庫を訪れた樫村たちに応対したのは、理事長の八雲靖吉でした。彼は、戦後の一時期フィクサーとして暗躍し、政財界の裏街道を渡り歩き、右翼や暴力団にも人脈がある人物。いまでも、警察の人事にも影響力を行使できるほど強力で、しかも狡猾で、したたかなパワーを持っていたのです。

 

突破口 組織犯罪対策部マネロン室 (幻冬舎文庫)

突破口 組織犯罪対策部マネロン室 (幻冬舎文庫)

  • 作者:笹本 稜平
  • 発売日: 2015/10/08
  • メディア: 文庫