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『疫病神』 - 産廃ビジネスの実態と「ややこしさ」

「闇ビジネスを扱った作品」の第三弾は、産廃ビジネスを素材にした黒川博行『疫病神』(新潮文庫、1997年)です。大阪が舞台。産廃ビジネス・産廃業界の実態と「ややこしさ」がよく描かれています。「毒は毒をもって制す」、つまりヤクザを使ってヤクザを抑える「前捌き」(略して「サバキ」)という「独特なトラブル処理の手法」についても、リアルに再現されています。

 

[おもしろさ] ワルばっかりが出てくる物語

人がモノを作る限り、それがゴミと化したときの処分、すなわち産業廃棄物に関わる問題は避けて通れません。ところが、その重要性にもかかわらず、この領域では、執筆当時、法も行政も整備が遅れていました。また、産廃の最終処分地(埋め立て地)の確保は、どこでも大きな頭痛の種になっていたのです。適した土地が見つかったとしても、所有権、水利権、地元有力者の懐柔、水路の改修、堰堤工事、50センチにもおよぶ申請書類の作成、同業者による妨害工作、現地までの搬入路の確保、環境問題など、解決すべき問題が山のように立ちはだかったのです。カネの絡むさまざまな揉め事・調整事が出てくるのは、日常茶飯事。「産廃は金になる」がゆえに、産業廃棄物の処分地を求めて、ゼネコン、土建屋、コンサンタント、不動産屋、地上げ屋、地方議員、極道たちがうごめく領域がつくられていくことになったのです。それゆえ、この本に描かれているように「ワルばっかりが出てくる物語」(解説者の後藤正治)になってしまっているのです(もちろん、現実の社会にあっては、すべての関係者が悪人と言うわけではありません)。

 

[あらすじ] 処分場をめぐるややこしい事態

解体屋出身の二宮啓之は、「サバキ」の斡旋で生計を立てている、しがない建設コンサルタント。日頃はぱっとしないとはいえ、一本筋が通ったところがある男。請け負った仕事は、身体を張って全力で向き合います。が、堅気だけで仕事を行うには限界がある世界。カネの亡者であるにもかかわらず、極道の桑原保彦の力を借りることになります。かくして、堅気の二宮は、極道の桑原を「疫病神」のように思いつつも、「相棒」として協力しながら「ワル」たちに対抗していきます。物語の発端は、小畠総業が富南市に建築廃材を対象にした安定型の最終処分場を造るという案件です。安定型とは、水に触れても有害成分を流出しない金属屑・ガラス屑・陶磁器屑。建築廃材などを対象とする処分場のこと。同社は、いくつもの障害と妨害を乗り越え、やっと実現に向けての条件が整ったように思われた途端、今度は、水利組合から補償料3000万円に2000万円を上乗せして欲しいという条件をつけられたのです。打開策の相談を持ち掛けられた二宮は、この処分場をめぐる実に「ややこしい事態」に直面することとなります。