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『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』 - デパート外商部の「驚き」! 

「デパートを扱った作品」の第二弾は、「顧客のためにはどんな要望でも受けたまわる」という外商の活躍を描いた真梨幸子『ご用命とあらば、ゆりかごから墓場まで』(幻冬舎文庫、2020年)です。万両百貨店外商部のトップセールス・大塚佐恵子や営業成績ナンバー2の小日向淑子を中心とする外商部の面々がお客様から受けるリクエストの数々。「こんなことまで頼むの」という驚きと、「こんなことまでやってしまうの」という驚きが加わり、「驚き二重奏」に! 外商の真髄-商品を売る「むずかしさ」とサービス業の「奥深さ」-に迫る作品です。

 

[おもしろさ] 外商の「心得語録」

本書の特色は、やはり「外商部のお仕事と部員の心得」を描き切っている点にあります。語録風に、いくつか紹介しましょう。①「無駄な買い物は絶対させない。お客様に“必要”なものしかお勧めしない」。②「お客様が無意識のうちに望んでいるものを察して、それを最良のタイミングでご提示する」。③「誰それ構わず愛想を振りまいていては、いざというときにエネルギー不足になる。優秀な外商は、滅多やたらに笑うことはないし、口数も少ない」。④「できないと言ってはならない。「どんな無理難題でも、何とかしろ」。

 

[あらすじ] どんな要望にもお応えします! 

東京の一等地にいくつもの土地とビルを持つ一族の宗家であり、元華族の井上家。一人娘の奈々子36歳は、なんの社会経験もなく、世間知らずのままで結婚するのは嫌だと申しているとか。そこで、彼女の社会経験の手伝いを依頼された大塚佐恵子は、万両百貨店品川店の地下食品売り場を社会経験の場に選んだのです。極秘に行われたはずなのですが、「どこかのお姫様がお忍びで働きに来ている」という噂はあっという間に百貨店中に拡散。あちこちの売り場で「お姫様疑惑」が生まれたのです。一方、外商部の営業成績ナンバー2で、ペット分野に詳しい小日向淑子。「お得意中のお得意」であるプロダクション・イロハの社長の依頼で、ありとあらゆるツテを頼って、要望の「ティーカッププードル」を見つけ、かなり強引なやり方でゲットしていきます。また、新興資産家・笠原家の総資産(500億とも600億とも言われている)を引き継いだ、先々代の唯一の孫に当たる笠原亜沙美の要望も非常にユニークなもの。15年前のことなのですが、ひどい訛りのタクシー運転手だった15歳年下の男性と結婚したい。周囲が反対しないように、半年間で「長らくイギリスに住んでいた、元華族の御曹司」に仕立て上げたい。「お金はいくらかかってもいい」ので、手伝ってほしいと頼まれた淑子。彼女のサポートも功を奏し、「田舎青年は、見事、紳士に生まれ変わった」のです。外商部の根津剛平が内田法律事務所の所長から依頼されたのは、「愛人を住まわせているのと同じマンションに、妻が部屋を欲しいと言っている。ふたりが鉢合わせすることを阻止してほしい」というもの。殺人を除けば、どんな要望にもお応えします。その言葉に、偽りはありませんでした。