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『TSUNAMI 津波』 - 巨大地震と巨大津波の恐ろしさ! 

「大災害を扱った作品」の第三弾は、高嶋哲夫TSUNAMI 津波』(集英社文庫、2008年)。「世界中の地震の一割が集中するという日本」にあって、近い将来、高い確率で起こると言われている東海地震東南海地震、南海地震。もしそれらの三つが連動して起きれば、いったいどのような事態・パニックが想定できるのか? さらには地震対策の当事者・研究者・一般市民が、それぞれのレベルにおいて、巨大地震と大津波をどのように受け止めることになるのか? 刊行された21世紀初頭における地震研究の状況、地震予知の最前線、想定できる地震津波の恐ろしさが臨場感あふれるタッチで描かれています。

 

[おもしろさ] 「波高20メートルを超える津波」の衝撃

本書の魅力は、なんと言っても地震津波に関する有益な情報が満載されている点にあります。例えば、①「予知か、防災か」という二つの潮流-「地震に対する研究の取り組みには二通りが考えられる。一つは、地震予知を含む地震そのものを研究する事である。それに対して、最近は地震は起こるべきものと考え、もっと防災、減災に取り組むべきだという考え方が強くなってきている」。②省庁間の枠を超えた連携の必要性-「省庁間の既得権益保持の意識が強すぎる日本」では、自然災害に関する公の組織が多すぎ、省庁の枠を超えた連携の十分行われていないという問題を解決することが不可欠、③原発をめぐる本社と現場の考え方のズレ、およそ対話が成立しない反対する人たちと擁護する人たちの間に横たわる溝の深さ、④名古屋を壊滅させた「マグニチュード7.8、震度7の巨大地震」や「太平洋沿岸の広い地域を襲う波高20メートルを超える津波」が引き起こす「地獄絵」とも言いえる大惨事についてのリアルな描写など……。

 

[あらすじ] 物語の魅力を支える登場人物たちの魅力

日本防災研究センター地震研究部部長で、コンピュータ・シミュレーションを使って地震予知の研究を行っている瀬戸口誠治。第七艦隊に所属する「世界最強の最新鋭原子力空母」に乗り組み、日本に帰国の途にある松浦真一郎陸上自衛隊一等陸尉35歳。松浦の妻であり、防災担当副大臣であり、党内きっての地震通の河本亜紀子35歳。大きな存在感を有する三人は、高校時代の同級生。阪神・淡路大震災で家族を失うという悲しい経験を有しており、そのときの記憶は、現在も彼らの精神に深く刻まれています。彼ら以外にも、大浜市役所防災課職員の黒田慎介26歳や、大浜原子力発電所四号機、第二班の当直長で、若手の訓練係を兼ねている水戸崎俊一53歳、漆原尚人副総理78歳などが大きな役割を演じています。なかでも、瀬戸口を師と仰いでいる黒田は、大学院で学んだあと、地元の市役所に就職し、太平洋沿岸地域の市町村防災課の職員に呼びかけて、独自の地震津波ハザードマップを作っています。立つ位置は違っても皆、巨大な地震津波を前に、精一杯の努力を怠らない魅力的な個性の持主ばかり。物語の魅力を支えているのです。