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『家政夫くんは名探偵!』 - 家事代行会社で働く美男子の探偵ぶりと仕事ぶり

「家事代行を扱った作品」の第二弾は、楠谷佑『家政夫くんは名探偵!』(マイナビ出版ファン文庫、2018年)。家事代行会社で働いている三上光弥。おどろくほど推察力に優れています。刑事の連城怜の家で仕事をしているとき、彼の抱えている事件の真相を言い当てます。本書は、家事代行業務を行う光弥の名探偵ぶりを描いた作品であるとともに、家事代行業を描いたお仕事小説としても楽しめる作品に仕上げられています。

 

[おもしろさ] 家事代行というサービス業の醍醐味も

この本でメインに描かれているのは、三上光弥の名探偵ぶり。しかし、ここでは、家事代行というサービス業の醍醐味についても描かれている点を強調しておきたいと思います。例えば、「酢を混ぜた水で拭くことの効用」、「埃が舞い上がらないようにする工夫」、「傷のついた茄子の方がポリフェノールの含有量が高い」、「鯖缶のメリット」、「ピーマンは、輪切りではなく、縦切りにした方が栄養的には優れている」などの指摘、また「スープは5分温めてください」とか「ご飯は多めに冷凍しておきました」といった注意書きが添えられていることなどの文言と出会うなかで、読者は、家事代行業という仕事で大事なポイントを知ることができるのではないでしょうか! 

 

[あらすじ] 完璧な立ち振る舞いと言葉使い、そして豊かな知識

連城怜27歳は、恩海市にある恩海署に勤める刑事。父もまた、刑事でしたが、6年前に同市で発生した凶悪犯罪の捜査中に、犯人に刺されて殉職。犯人は逃走し、顔も名前もわかっていません。怜が刑事になった理由の一つは、その未解決事件に対する執着でした。多忙を究める生活のなか、非番となったある日、正直ゆっくりしたかったし、苦手な掃除に一日を費やすことは苦行以外の何物でもありませんでした。ある新聞紙に挟まれていたチラシのなかから、目に留まったのは、「家事代行サービス MELODY 掃除・洗濯・炊事なんでもやります」という言葉。気が付けば、スマホでチラシに記された電話番号をタップ。やってきたのは、三上光弥という、美女ならぬ、絶世の美男子。19歳の大学一年生のようです。彼の完璧な立ち振る舞い、配慮の行き届いた言葉使い、そして家事に関する豊かな知識に驚かされる怜。黙々と仕事をこなす光弥との話題のひとつとして抱えている事件の話をすると、光弥はあっという間に、真相を言い当ててしまいます。その後も、光弥の名探偵ぶりは発揮され、ついに6年前の未解決事件についても……。