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『[小説]日本企業はアジアのリーダーになれるのか?』 - 国内基準からアジア基準へ

20世紀末、「メイド・イン・ジャパン」の工業製品が世界中を席巻しました。とりわけ、アジア各国における日本企業の存在感は、際立っていました。ところが、いまや韓国・中国といったライバル国との熾烈な競争のなか、日本企業のパワーは大きく損なわれつつあります。その理由は、どこにあるのか? アジアの覇者として勝ち抜いていくための条件とは? 今回は、「東南アジア・ビジネス」を扱った作品を二つ紹介するなかで、そうした課題についても考えてみたいと思います。

 

「東南アジア・ビジネスを扱った作品」の第一弾は、現地で成功するための秘訣を探る海野惠一『[小説]日本企業はアジアのリーダーになれるのか?』(ファーストプレス、2016年)。ベトナムにおける高速道路の電子料金収受システム(ETC)案件の受注をめぐり、ライバルである中国企業との厳しい戦いを描いた作品。グローバルな世界で活躍できる人材とは? 日本人ビジネスパーソンに欠けている素質とは? アジアで勝利を収めるために必要不可欠な、中国人のビジネスの進め方や華僑商法をどのように学んでいけば良いのか? そうした疑問に対する答えが凝縮されています。

 

[おもしろさ] 日本企業が負け続けている理由

インドネシアにおける高速鉄道の受注戦での敗北に代表されるように、アジアにおける多くのビジネス案件で、日本企業は負け続けているようです。著者は、その理由を次のように説明しています。①日本の技術の「ガラパゴス化」。すなわち、閉ざされた環境の下で最適化されたものが多く、他国の技術との互換性がない。②技術・品質・メンテナンスのレベルを現地に合わそうとしない。多機能・高性能・高信頼性へのこだわりから、コストが軽視されている。③国際標準を決める組織で活躍できる日本人が皆無に近い。だから、いくら先端的な技術を持っていても採用されない。④グローバルビジネスと言いながらも、アジアではほとんどが現地の日系企業を相手にしており、現地企業や欧米企業と競合するようなビジネスを展開してこなかった。⑤現地の人たちの懐に入るような付き合いをしておらず、人間として心底信頼されてはいるとは言い難い。本書の魅力は、そうしたウィークポイントを克服して、突破口を見出すには、どのようにすれば良いのかを、小説仕立ての物語を通して示している点にあります。

 

[あらすじ] 「グローバルリーダー」って、どんな人? 

日本ITCソリューション情報通信部課長の佐々木慎吾は、海外赴任によって「リベラルアーツを身に付けたネゴシエーションができるスキル」と「華僑商法を身につけ相手に騙されないスキル」を獲得し、「日本の歴史を理解した日本の精神」を持つグローバルリーダーとして成長した人材。上司となる事業部長の三森隆司も、「今までのやり方を打ち壊してでも、どうすれば勝てるのかを一緒に努力していきたい」と、彼にはっぱをかけます。では、上述のようなウィークポイントを克服し、どのようなやり方が模索されていくのでしょうか?