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『カフェ、はじめます』 - 素人の40代女性がなぜ? 

「カフェを扱った作品」の第二弾は、岸本葉子『カフェ、はじめます』(中央公論新社、2015年)。吉祥寺に住む40代の独身女性・和久井いさみが、「かわいい古民家」に一目ぼれ。「家を壊されたくない」という思いから、その家を借り受け「おむすびカフェ」を開業するまでのプロセスが描かれています。

 

[おもしろさ] カフェを開業するまでに立ちはだかる諸課題

本書の特色は、カフェの営業を描くというよりは、まったくの素人がそれを開設するまでのプロセスを、読者と一緒に楽しむという内容になっている点にあります。大家、不動産業者、行政書士などとの出会い・折衝・駆け引きを通して、リフォームや営業許可など、開業するための準備は進められていきます。

 

[あらすじ] きっかけは、「かわいい」古民家との偶然的な出会い

日本橋の片隅にある崩れそうなビルに入っている法人に勤め、四十代半ばにさしかかろうという今も昇給をほとんど期待できそうもない」和久井いさみ。住まいは、中古マンション。変化のない一人暮らしのささやかな贅沢は、スーパー「万寿屋」で購入する嗜好品。ある日、彼女は、万寿屋に隣接する家に住む老女・睦子と偶然話をすることになります。そして、塀の奥にある家を見て、思わず「かわいい」という言葉を発します。そこにあったのは、昔ながらの日本の家にところどころ取ってつけたように洋館の造りを取り入れた、奇妙だがなつかしさをそそる家屋だったのです。やがて、興和リアルエステートに勤めている堀加奈子や、大共地所の仁岡伸彦がやってきますが、睦子は「居留守」を決め込みます。不動産会社の営業員であるふたりは、前々から、睦子の土地を買いたいと思い、顔を出しているのです。かくして、その古民家にほれ込んだいさみの「おむすびカフェ」がオープンまでの長い物語が始まったのです。