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『戦略は『一杯のコーヒー』から学べ!』 - 一杯のコーヒーから見える世界

ほぼ毎日、朝食の際に飲む、ちょっと濃い目の緑茶。お気に入りの湯のみに入った一杯目の狭山茶。「おいしい」という味わいとともに、私の一日が始まります。また、一日に一回、楽しませてもらっているのが一杯のカプチーノ。こちらの方は、なんらかの作業が一段落したときの気分転換になっています。私の場合、家の外でお茶やコーヒーを味わう機会は、ほとんどありません。しかし、多くの方々にとっては、カフェ、コンビニ、喫茶店などで、コーヒー・紅茶・お茶などを飲むのは、心身をリラックスさせてくれるひとときになっているのではないでしょうか? 今回は、「カフェ」を素材に、そうした嗜む側の受け止め方ではなく、提供する側にある「奥深いビジネスの世界」を探るため、二つの作品を紹介したいと思います。

「カフェを扱った作品」の第一弾は、永井孝尚『戦略は「一杯のコーヒー」から学べ!』(KADOKAWA、2014年)。コーヒーのおいしさは、「丁寧に、入念に、コーヒーの個性を引き出すことだ。それに尽きる」。でも、そこにビジネスという視点を入れ込むと、多彩なコーヒー会社の実態が見え隠れしてきます。本書は、飲んだコーヒーのおいしさに衝撃を受け、「ドリームコーヒー」(社員100名)に入社した新町さくらの活躍を通し、一杯のコーヒーから浮かび上がるビジネスの実態を浮き彫りにしています。

 

[おもしろさ] コーヒー会社の多様な戦略とビジネススタイル

コーヒーという言葉を聞いたとき、どんな会社を思い浮かべますか? スターバックスドトールコーヒー、星乃珈琲店UCC上島珈琲セブンイレブンマクドナルド、ネスレ……、いろいろあると思います。本書の特色は、さまざまな形でコーヒーを提供している、そうしたライバル会社との競争のなか、各社のユニークな戦略とビジネススタイルを理解したうえで、ドリームコーヒーの戦い方を吟味している点にあります。

 

[あらすじ] 「ドリームコーヒーらしさ」を確認し、発展させる

ブラック企業の金融会社に勤めていた新町さくら。激怒した社長に「クビ」と怒鳴られ、会社を逃げ出した彼女は、「ドリームコーヒー」の直営店で飲んだコーヒーの「おいしい」に衝撃を受けます。渋谷夢之助社長と出会い、入社を決意。同社は、この規模のコーヒー会社としてはめずらしく、コーヒー流通の川上から川下までひと通りそろった会社でした。それがここ20年間ほどは売り上げが低迷しています。スペシャルプロジェクト(SP)室に配属されたさくらは、経営変革の根幹をなす同室の藤岡雅治室長の右腕として頑張ってほしいと励まされます。といっても実は、SP室は名ばかりの部署で、室長の訓示は「仕事は自分で創り出す」というもの。入社2日目、出社すると、室長は「旅に出る」と書かれたポスト・イットを残して不在。そこに突然入室したのは、ライバル店の高津珈琲を敵情視察してきた、カフェ事業部の町田南。さくらは、「足で稼ぐ」をモットーにいろいろな人に直接会いに行って教えを乞い、そのなかから自分のやるべきことを探そうとします。そして、紆余曲折を経て、さくらたちは、「ドリームコーヒーらしさ」を確認し、その強みをさらにパワーアップしていくことに。