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『カラ売り屋 VS 仮想通貨』 - 仮想通貨の罠

「カラ売り屋を扱った作品」の第四弾は、黒木亮『カラ売り屋VS仮想通貨』(角川書店、2021年)。パンゲアによる「カラ売り屋」シリーズ四作目。8月27日に出版されたばかりの最新作です。今回は、仮想通貨交換業者、巨大航空会社、新興電気自動車メーカーをターゲットとした「カラ売り屋」の仕掛けと対象企業の反撃が描かれています。

 

[おもしろさ] 「濡れ手で粟の錬金術

「資産の裏付けがないから、これって本当に価値があるのかって疑問が、ずっとついて付いて回る」。「足がつきにくく、ロンダリングもやりやすい」。そして、調べれば調べるほど、つかみどころがない。「投機の対象か、マネーロンダリングの手段か」。「ビットコインが世の中に出てきた2009年頃、マニアのお遊びみたいなもので、1ビットコインが9銭」。ところが、先物取引が始まった2018年1月、2万650ドル(約232万円)になっています。まさに「濡れ手で粟の錬金術」。第一話の「仮想通貨の闇」では、「マイニング」(仮想通貨の新規取引を『ブロックチェーン』と呼ばれる分散型台帳につなぐのに必要なナンスを見つけるための計算作業)の実態、ビットコインを使った「闇サイト」上の取引のやり方、北朝鮮の180部隊が行う金融機関へのハッキングによる仮想通貨の「オンライン窃盗」、価格をつり上げる手法など、興味深い指摘が満載です。

 

[あらすじ] パンゲアと「日本橋証券=コインドリーム社」の死闘

日本橋証券社長・浅倉一郎は、やり手の経営者として知られています。同社からの資金援助を受けて設立された、子会社の仮想通貨取引所「コインドリーム社」。13種類もの仮想通貨の売買が可能。送金時に必要となるパスワードとなる70~80桁の「秘密鍵」は、パソコンではなく、天才肌の水谷透社長の頭の中で管理されています。しかし、「短期間で業績を上げるために、匿名性の高い仮想通貨を何種類も取り扱ったり、本人確認もろくにやらないで、ロシアやイランや北朝鮮の客と取引している」という噂話が。やがて、「抱える時限爆弾-コインドリーム社」という副題付きで、パンゲア日本橋証券の「売り推奨レポート」を発表。こうして、パンゲア日本橋証券=コインドリーム社の対決が戦いが開始されます。ほかにも、途方もない金額の簿外債務を抱える巨大航空会社「ブルースカイ航空」(第二話)と、宇宙ビジネスの「コスモスX」、電気自動車の「マーズ」、太陽光発電の「ソーラーZ」という三つの事業をスタートさせた神尾隼人、とりわけ「マーズ社」(第三話)とのバトルが取り上げられています。