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『復活の日』 - バイオハザードで人類は絶滅するのか?!

バイオハザード(生物災害)。ウイルスや細菌といった病原微生物や寄生虫などが原因となり、人間の生命や健康、さらには農業・畜産業にも影響を与える災害のことです。非意図的または偶発的に起こった事故(実験室や病院内から外部への漏出)と意図的に引き起こされた事件の総称です。それは、昨今の新型コロナウイルス感染症によるバイオハザードに示されるように、「世界的な大流行(パンデミック)」を引き起こし、人類にとって大きな脅威になるわけです。確かに、人類の大量殺戮を防ぐ目的で、生物兵器禁止条例が締結されています。しかし、その理念を裏切るような事態が起こる危険性が常にあることもまた、世界の現実と言わざるをえません。今回は、バイオハザード(生物災害)を扱った作品を三つ紹介します。

バイオハザード(生物災害)を扱った作品」の第一弾は、細菌兵器を素材にした小松左京復活の日』(角川文庫、1975年)です。バイオハザードおよび核兵器による米ソ間の報復攻撃によって絶滅の危機に瀕した人類の姿と、「復活する日」をめざして努力する人々の様子が描かれています。『日本沈没』とともに、SF作家・小松左京の代表作です。1980年6月に公開された映画『復活の日』(監督は深作欣二さん、主演は草刈正雄さん)の原作。

 

[おもしろさ] 第三次世界大戦絵空事ではなかった時代に

細菌兵器を念頭において開発された、謎の病原体に起因する原因不明の突然死からのスタート。静かに、そして確実に拡大。やがては人類の大量殺戮をも引き起こしていく。本書の特色は、そうしたバイオハザードの展開と、それによって引き起こされる核戦争の恐ろしさが余すところなく描かれている点にあります。本書の解説でも触れられているように、米ソが核攻撃の火ぶたを切る一歩手前まで進んだキューバ危機が勃発したのは1962年。そして、この本の初刊が早川書房から出版されたのは1964年です。第三次世界大戦絵空事ではなく、現実に起こりうると考えられていた時代に書かれたのです。また、海外に関する情報収集の手段が限られ、海外渡航もままならない時代に、これほどまでワールドワイドな内容の作品が書かれたことは、著者の力量を如実に示しています。

 

[あらすじ] 南極で唯一生き残った人たちに待ち受けていたもの

196×年2月、イギリス陸軍細菌戦研究所で試験中の猛毒の新型ウイルス「MM-88」が極秘に持ち出されることになります。MM菌は、摂氏マイナス10度前後までの低温では増殖が抑えられるものの、5度に達すると、猛烈な毒性を持ち始める。生体内に侵入(感染)すると、短時間で跡形もなく溶解し消失してしまう。抗生物質は効かない。そして、感染から70時間以内に生体の約70%を急性心筋梗塞で死に至らせる。それほど毒性の強いものだったのです。細菌を運ぶ人物が乗った小型飛行機は、吹雪に遭いアルプス山中に墜落。ウイルス保管容器は砕け散ることに。春になり、気温が上昇すると、MM-88は大気中で増殖し、世界中に広がります。3ケ月そこそこで、35億人もの人が死亡。生き残ったのは、南極大陸に滞在していた各国観測隊員約1万人と、海中を航行していたことで感染をまぬがれた原子力潜水艦のネーレイド号(アメリカ)とT-232号(ソ連)の乗組員だけでした。過酷な状況下で、南極の人々は、国家の壁を越えて協力し、再建の道を模索します。ところが、4年後、日本観測隊の地質学者・吉住利夫は、アラスカ地域での巨大地震の到来を予測。もしその地震ホワイトハウスに備えられたARS(全自動報復装置)が敵国の核攻撃と誤認すると、米ソ間での核兵器の相互攻撃が始動し、南極も爆撃される公算が強いことが判明します。ARSについてよく知っているカーター少佐と一緒に、吉住は、ARSを停止するための決死隊としてワシントンに。が、停止させることはできませんでした。核兵器による報復合戦が始まり、世界は二度目の破局に直面します。南極に残された人々の運命は?