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『レッドリスト』 - 人類が絶滅危惧種(レッドリスト)に指定される! 

バイオハザード(生物災害)を扱った作品」の第二弾は、安生正『レッドリスト 絶滅進化論』(幻冬舎文庫、2020年)。ウイルスではなく、高等な哺乳類の急激な進化により、人類が絶滅の危機に直面するというバイオハザードが描かれています。レッドリストとは、絶滅のおそれがある野生生物の種のリストのことです。そのなかに人類も加えられるかもしれません。とても恐ろしい話ですね。

 

[おもしろさ] ネズミやコウモリがヒトを食うようになるのは? 

「ネズミが肉食に進化し、ヒトを襲う」。「コウモリが人間を食う」。では、なぜそうした現象が起こるようになるのでしょうか? ヒトを襲うことで餌を得ようとしたためです。背景に、生態系の破壊に伴い、生存競争のあり方が変わり、それまで食べていたものが減少するという事情があります。本書の特色は、バイオハザードの引き金となるのが「生態系の破壊」であるとして、森や海の破壊や汚染をストップすることの重要性を訴えている点にあります。解説を書かれた今泉忠明さんの言葉を引用しましょう。「政治家は茫漠たる湿原や干拓などを見ると、すぐに埋め立てることを考え、森を見ると切りたがる。だが明日は確かにお金になるだろうが、結局はバイオハザードが発生してそのお金以上の出費を見るのである」。

 

[あらすじ] 新たな環境が新しい進化をもたらす! 

物語の冒頭。富士山麓青木ヶ原樹海で、右腕が無残に食いちぎられ、顔面の左半分が消失し、腹が左右に引き裂かれた男性の遺体が発見されます。3年後、都内で謎の感染症が発生し、死亡者が続出。さらには、東京メトロ構内でネズミやコウモリが大量発生。厚生労働省健康局結核感染症課の課長補佐を務める降旗一郎は、感染症研究所の都築裕博士とともに感染症の原因、さらにはそれとネズミの大量発生には関係があるのかといった点の究明を命じられます。必死に感染源を探す二人。西南大学教授で、動物学の権威と見なされていた村上教授にも面談します。やがて、「都心という新たな環境に順応した生物が新たな進化を遂げている」のではないかという認識に到達することに。さらに、地下鉄構内で連続殺人が勃発し、凶暴化したコウモリの大群が目撃されることに。東京は未曽有の事態に陥っていきます。そして、そうした一連の事件の裏では、例えば富士の樹海からヒルを都心に移動させ、生存環境を急変させると、「急激な進化が起こり、それに伴い特定の種が絶滅するのではないか」という仮説を実証したいという村上教授の危険な思惑も絡んでいたことが暗示されていきます。「我々は人類史上初めて、一つの種が絶滅する瞬間を目撃できるかもしれない」、「コウモリとの戦いに敗れた人類が、レッドリストの最上位に、『絶滅種』に登録される」と考えていたのです。果たして、コウモリとのバトルに打ち勝ち、人間たちは生き残るのでしょうか?