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『蛮政の秋』 - 一通のメールからあぶり出される「政治家の闇」

堂場瞬一の『メディ三部作』」の第二弾は、『蛮政の秋』(集英社文庫、2018年)です。東京本社社会部で働くようになった新聞記者・南康祐と野党・政友党の国会議員・富永卓生。両者のもとに届いた、「50人もの政治家に対するIT企業による現金のばらまき疑惑」を匂わせるメール。立場や思惑が異なる南と富永。が、両者は一定の距離を保ちながらも、それぞれの立つ位置から「疑惑」の真相を探ろうとします。

 

[おもしろさ] 真相を解明していく記者の一歩一歩

本書の読みどころは、なんといっても「政治家に対するIT企業の現金のばらまき疑惑」の真相解明を一歩一歩、ステップを踏んで行っていく過程にあります。メールに付された政治家のリストのなかには、代議士の三池高志の名前が含まれています。『警察回りの夏』にも登場した因縁の政治家(元警察官僚で、「メディア議連」の代表者)がここにもあらわれるのです。もし「メディア規制法」を推進しようと画策している三池が、ネットメディアを展開するJPソフトから献金を受けていたとなると……。果たして、行き着く先にあるのは、どのようなリアルなのでしょうか? 

 

[あらすじ] 怪しげな情報が新聞記者・南と野党の政治家・富永に

甲府支局から本社に上がってきた南。警察回りを担当させられた5ケ月間、ひたすら人の命令で東京を将棋の駒の如く動き回っていました。その後、社会部遊軍に回されたことで、時間と気持ちに余裕ができてきました。しかし、周囲の人たちの間では、「甲府支局で誤報を書いて、会社を窮地に陥れた人間」という評価が定着しているようです。それを払しょくし、名誉を挽回するためには、「一発逆転の、周りの冷たい目を尊敬の視線に変えるような記事」が必要だと感じていました。そのようなとき、「IT企業大手、JPソフトが、政界に現金をばらまいていた疑惑が高まった。現金を受け取った政治家の数は50人にも及ぶ。東京地検特捜部も重大な関心を寄せている」というメールが届きます。リストが本物なら、政界を震撼させる大事件に発展する可能性が高いわけです。が、送信者には心当たりがありません。誤報を飛ばした過去があり、どう扱うか、どうしても慎重にならざるを得ません。南の心のなかでは、早くものにしたいという「はやる」気持ちと「焦るな」という無言の戒めが綱引きをします。他方、野党である政友党国会対策副委員長・富永卓生もまた、同じメールを受け取ります。政友党の存在感が薄れつつあるいま、与党民自党が解散に打って出るとなると、多くの政友党議員が議席を失うだろうと、富永は警戒しています。そのような折に届いたメール。「いたずらか悪質なひっかけ」というのが、当初の彼の判断。しかし、もし事実なら、民自党に大きな打撃を与えることになります。彼もまた、その扱いに大いに揺れ動かされます……。一通のメールから、南と富永のスリリングな、真相解明に向けてのアクションがスタートします。