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『衆愚の果て』 - 新人議員が見た国会議員のリアルな生態

「国会議員を扱った作品」の第二弾は、高嶋哲夫『衆愚の果て』(幻冬舎文庫、2012年)です。半年前には「染みのついたTシャツに破れたジーンズ姿」のプータローだった男。政党が行った議員公募に応募し採用された後の選挙で当選し、衆議院議員になります。そんな新人議員の目に映し出された「国会議員のリアルな生態」が浮き彫りにされています。

 

[おもしろさ] 「無責任でいい加減な議員」たち

本書の特色は、「政治家の待遇の良さ」と「政治家たちに関するさまざまな問題点」が明らかにされている点にあります。10年ほど前の状況ということになりますが、待遇の一端を紹介しますと、①約2200万円の年収に「文書通信交通滞在費(年1200万円)」や「立法事務費(年780万円)」がプラスされ、1年間で合計で約4200万円にも及ぶ収入、②政党交付金から支給される数百万円もの「心づけ」、③都心の一等地に立つ「家具付3LDK、家賃9万2000円」の宿舎、④全国のJR・私鉄・地下鉄・バスが無料で乗車できる特権、⑤海外視察費として約200万円の支給などが指摘されています。もちろん、それだけの好待遇であっても、国民のためにしっかり仕事ができているのであれば、それで構わないと言えるかもしれません。ところが、それほど好条件下にあるにもかかわらず、実際には、問題だらけの政治家が多いのが実態なのです。例えば、①「議会中にメールのやり取りをしている」、②「無責任でいい加減」、③「何か問題が起こればすべて秘書のせいにする」、④「世襲議員が多く、すでに家業になっている」、⑤「何の思想もない。ただ政治遊びが好きなだけだ。単なる思い付きで政治ができると思っているから始末が悪い。政策なんてコロコロ変わる」、⑥「官僚の力をうまく活用しきれていない」、⑦「しがらみの塊、利権の塊の老人が党を牛耳り、派閥を作り、その中で国の行く末が決められていく」という衆愚の果てのような現実など……。そもそも、アメリカなどとも比べて、議員数が多すぎる。いまの「半分の人数で十分にやっていける」といった指摘も! 

 

[あらすじ] 国民ばかりに負担を強いる政治家への嫌悪感

衆議院選挙によって第一党となり、政権交代を実現させた民有党。愛知県から立候補した大場大志27歳は、比例区98位で当選に、念願の国会議員になります。大学卒業後、さまざまな職を経験しては退職することを繰り返していました。選挙の半年前からはまったくの無職、プータローでした。たまたま買った新聞で民有党が出した衆議院議員比例区の公募を見て応募し、「ブービー賞」ながらも、めでたく国会議員になったのです。新人議員に対するオリエンテーションで言われた注意事項は、「何も考えるな。マスコミに何も言うな。ひたすら有権者に頭を下げて、握手しろ。笑顔を絶やすな。何を言われても、分かりました。よく考えておきます、で通せ。次の選挙のことだけを考えろ」など。最初は、さまざまな特権を手にして「おいしい仕事」であることを確信。しかし、自身の身を削らずに国民ばかりに負担を強いる政治家に対して次第に嫌悪感を抱くようになります。そして、自ら制度改革を実施するべく、党の決定に逆らって「議員立法」を目論んで行動を開始。