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『主婦やめます!』 - 家事代行業の円滑な運営には

共働きの一般化、人口の高齢化、単身者の増加などに伴い、掃除・洗濯・食事の提供・買い物などの家事を代行業者に委託することがごく普通に行われるようになってきています。時間的、身体的に家事を行うことが難しい人にとっては、非常に便利なサービスです。では、①どのような事情のもと、そうしたサービスが起業されるのか、②どのようなことに気を配りながら、仕事が行われるのか、また、③具体的な仕事の中身とは、いかなるものなのか? そうした点を探るため、今回は、家事代行を扱った作品を二つ紹介します。

「家事代行を扱った作品」の第一弾は、桜川ヒロ『主婦やめます! 家事代行チーム松竹梅』(富士見L文庫、2019年)。夫の松枝敬一35歳が退職を余儀なくされた、主婦の松枝梨沙29歳。主婦友の奥竹美加子、汐田梅と一緒に「チーム松竹梅」を結成。家事代行業を始めます。当初、お客さんからの依頼は皆無。それでも、三人三様の「得意分野」をうまく生かしながら、仕事は徐々に軌道に乗っていきます。

 

[おもしろさ] 松枝梨沙・奥竹美加子・汐田梅の得意分野! 

家事代行業務に対する社会的なニーズが高まっているからと言っても、だれでも気軽に参入し、うまく事業化を成功させていけるというわけではありません。円滑な運営には、それなりに周到な準備のほか、対応力・力量・知識が不可欠となります。では、「チーム松竹梅」の場合、どのような要素がビジネスを軌道に乗せることにつながっていったのでしょうか? それは、三人が持っているそれぞれの「得意分野」と、それらをうまく結びつける「協力態勢」が功を奏したからです。まず、細かい検定まで合わせると、三桁近くになり、友人たちには、「資格コレクター」と呼ばれている松枝梨沙が、リーダー格としての役割を果たします。ホームページを作ったり、会社としての体裁を整えたり、経費の計算をしたりするなど、彼女にとっては朝飯前の簡単な業務。次に、奥竹美加子(40歳代)の場合は、周りを元気にさせる陽気さと人望の厚さを兼ね備えています。彼女の人脈・交友関係の広さも半端ではありません。そして、70歳を超える汐田梅は、豊富な知識の持主。特に掃除や料理の腕は素晴らしく、彼女に落とせないシミや汚れはないと言われるほど。本書の魅力は、そうした三人の得意分野が実際のビジネス展開のなかでどのように反映されるのかを楽しむことができる点にあります。そして、他人の家庭の事情に踏み込むのはけっして良くないことだとはいえ、放っておけなくて、つい手助けしてしまうという「ちょっとお節介な気持ち」もまた、成功するのに不可欠な要素のひとつになっていると、気づかせてくれます。

 

[あらすじ] 「専業主婦」から「専業主夫」へ

出産する前の梨沙は、バリバリのキャリアウーマン。1歳半になる娘が3歳になれば、働くつもりにしていました。しかし、夫の松枝敬一が、上司がやった仕事のミスを全部被らされ、自主退職扱いでの退職を余儀なくされてしまいます。おっとりとした性格で、頼りなく感じることもある夫。反面、真面目で、責任感が強い。早く再就職先を決めようと、ハローワークに通い詰めてはいるのですが、どこからも良い返事をもらうことができていません。そんな折、地元のタウン誌『LINKS』の編集をしている友人の猪原千佳から、家事代行サービスの話を聞きます。その直後、敬一が、公園の遊具から落ちそうになった娘をかばい転倒してけがをし、緊急入院することになります。そこで、しばらくは動くことがままならない夫には、「専業主夫」になってもらい、働くことを決意する梨沙。「チーム松竹梅」による家事代行業のスタートです。