経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『幸福な会社』 - リーマンショック後における鉄鋼業の苦悩と再生

「鉄鋼業を扱った作品」の第三弾は、阿川大樹『幸福な会社』(徳間文庫、2011年)です。かつて「鉄は国家なり」「鉄は産業の米」と言われ、日本の経済発展を支えた鉄鋼業。ところが、リーマンショック後の不況下で、業績の低迷にあえいでいます。苦境に陥った鉄鋼会社を活性化するには? 新しいビジネスモデルの構築を模索する人たちの苦悩と再生への道筋が示唆されています。「キーワードは、幸福を売る」! 

 

[おもしろさ] 「幸福を売る」というビジネスモデルへの模索

企業が本業以外での稼ぎ方を探し出すことは、容易なものではありません。本書の「読みどころ」は、その方法として鉄鋼会社が新たに「幸福を売る」というビジネスにたどり着くまでの長い道のりを描き出している点にあります。では、「幸福を売る」とは、具体的に、どのような内容のものだったのでしょうか? 

 

[あらすじ] 「自分のいちばんやりたいことをやってみて欲しい」

大日本鉄鋼は、老舗の製鉄会社。考え方も、きわめて古い体質が残っています。12年前、新規事業に進出したものの、失敗して750億円の「損失」をもたらしたことで、会社を辞めた旭山隆児。かつての上司であり、いまでは会長になっていた松宮賢一に懇願され、62歳にして古巣に戻ることに。松宮の言い分は、「景気に左右されない分野」への進出、「でかすぎない組織をつくって何か面白いことをやってくれないか」というものでした。こうして、赤字続きの会社経営に風穴を開けるべく、第三企画室という新部署の室長に就任した旭山。メンバーは、オートバイが大好きな風間麻美28歳とギター好きの新入社員・楠原弘毅22歳。真っ赤な髪の毛を逆立てている室長に戸惑う二人に対して、旭山は言ったのです。ミッションは「大日本鉄鋼を救うこと」「鉄以外のことをやることだ」、そして「明日から一週間、出社禁止だ……自分のいちばんやりたいことをやってみて欲しい」と!