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『東京大地震2023』 - 想定外の災難が次から次へと降りかかる

「大災害を扱った作品」の第四弾は、柘植久慶『近未来ノベル 東京大地震2023』(PHP文庫、2012年)。東京湾直下型地震と房総沖プレート型地震が連動して起こり、東京湾に10メートルを超える大津波が発生します。想定外の事態が次から次へと起こるなかでの人々の行動とは? 主人公は設定されておらず、さまざまな状況下における多くの人たちの悪戦苦闘が描かれています。

 

[おもしろさ] 人々の狼狽と恐怖

本書の特色は、東京を中心とした「多くの地域で非常に多くの人たち」を登場させ、彼らが直面する大地震・大津波の恐ろしさ、被害が拡大していくなかでの人たちの恐怖心・行動を浮き彫りにしている点にあります。安楽純・首相や浦島亀太郎・都知事といった地震対策の当事者たちだけではなく、数多くの市井の人たちは、なにを感じ、行動したのかが克明に描かれています。

 

[あらすじ] コンテナ・タンカー・高速道路・地下鉄……

2023年12月15日午後5時35分ごろ、東京湾北部を震源とするマグニチュード7.9の直下型地震が勃発。首都の機能はほとんど麻痺状態に。さらに30分後、今度は、東京湾の外、房総沖フィリピン・プレートを震源とするマグニチュード8.6の大地震が発生、10メートルを超える大津波東京湾岸を襲います。それに伴う被害は、想像を超えるスケールに。地震津波・火災は、個別に起こっても甚大な被害をもたらすわけですが、それらが重なり合うと、被害の度合いはいっきょに跳ね上がってしまうからです。印象的なシーンをいくつか紹介しますと、①水に浮き、津波によって流された「1万個」とも目される大量のコンテナ(空の状態で一個当たり2トンの重さがある)が建物・ビルにぶち当たり、それらをことごとく破壊させていく様子、②東京湾に停泊中のオイルタンカーが流され、岸壁に当たって炎上する様子、③かりに一台でも炎上したら、バックしようにもすぐ後ろに車両がいるので、すぐに通行できなくなってしまうという高速道路の弱点、④地下深く掘られたところを走る地下鉄の場合、いったん浸水すると、被害は破局的な域に達するという話などを挙げることができるでしょう。