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『富士山大噴火』 - 過去の噴火・予知・破局的な結末

「大災害を扱った作品」の第五弾は、鯨統一郎『富士山大噴火』(講談社文庫、2007年)。1707年の「宝永の大爆発」以来、300年以上爆発していない富士山。相当なエネルギーが蓄積されているので、もし噴火が起これば、未曾有の災害に見舞われることが危惧されています。本書は、大噴火の前兆かもしれない小さな現象から始まり、やがて大爆発が起こり、悲惨な結末に至るまでのプロセスをリアルに描いた作品です。主人公は、カメラマンの山本達也とフリーライターの天堂ゆかり。4ケ月先に結婚式を控えるカップルです。

 

[おもしろさ] 静かに始まり、激しく、かつ恐ろしく終わる

本書の特色は、動物たちの異常行動や「低周波地震数の増加」といった現象から始まった富士山大噴火への懸念が少しずつ現実のものとなり、破局的な大災害を引き起こすというストーリー展開にあります。まさに「静かに始まり、激しく終わる」! 2メートルをも超える「火山弾」は、人間や建物に直撃し、石油タンクなどをも破壊し、住宅街を炎上させる。溶岩流は、市街地を全滅させるだけではなく、海に入れば波高7~8メートルの津波を引き起こす。火山灰は、首都圏に降り注ぐ。細かい粒子がエンジンに入り込むと、車は動かない状態になり、パソコンなどに入ると、電気系統を麻痺させ、停電を起こし、銀行のオンラインも作動しなくなる……。「なす術もない」状況下で、できることは? それぞれが「自分の役割に全力で当たって、この災害の被害を最小限に食い止めようとする」しかないと述べられています! 

 

[あらすじ] カメラマン + フリーライター + 市井の観測者

主に社会的記事を得意とするフリーライターの天堂さゆり。アロー出版の専属カメラマンをしている山本達也と一緒に、登呂遺跡関連インタビューのため静岡にやってきました。とある公園で、ドーベルマンに襲われ、間一髪で難を逃れたのですが、日頃、「おとなしい犬」がなぜ人を襲ったのか? ちょっとした疑問が残りました……。一方、科学系雑誌の依頼を受け、雲の写真を撮るため、天文台に勤務する職員・新藤一美のもとを訪れた達也。彼女の専門は星の観測ですが、雲と地震の観測にも精を出し、ついにFM電波を活用して、「ピンポイントで地震を予知するノウハウを発見」することに。ところが、専門家からはまったく無視されています。その話を聞き、「絶対、発表すべき」と考えた達也は、一美のために、シンポジウム「地震予知の現在」(主催アロー出版)を企画。その当日、一美は、星城大学教員・下聰二朗から、気象庁の下部組織・火山噴火予知協会が設置した富士山監視委員会で、「地震の予知」について協力を依頼されます。他方、ゆかりは、動物学者の蝶名林阿蘭から「池の鯉がやたらと跳ねている」ことを聞きつけます……。「ドーベルマンの女性ライター襲撃」と「池の鯉の飛び跳ね行為」にとどまらず、ほかの動物たちの「異常行動」が次々に指摘。加えて、「風穴内の氷柱の現象」といった自然現象や「低周波地震数の顕著な増加」という観測結果などから、徐々に富士山噴火が近づいているのではという憶測は、確信に変わっていったのです。