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『コラプティオ』 - 総理大臣の資質とは、なにか? 

日本で最も名前が知られ、多忙をきわめる人物と言えば、やはり総理大臣ではないでしょうか。実際のところ、ほぼ連日、発言内容はもちろんのこと、その一挙手一投足に至るまで、メディアや国民の目線にさらされることになります。なにか事を起こそうとするときは、そのリーダーシップ・力量・ビジョンが大きく問われます。さらに言えば、総理大臣の力は、日本の未来を大きく左右するほど大きな影響力を持っているのです。そこで、今回は、総理大臣を扱った作品を四回に分けて紹介したいと思います。

「総理大臣を扱った作品」の第一弾は、真山仁『コラプティオ』(文藝春秋、2011年)です。『別冊文藝春秋』(2010年3月号~2011年5月号)に連載された同名小説の執筆中に東日本大震災が起こったため、大幅に加筆修正されてできあがった作品。コラプティオとは、ラテン語で「汚職・腐敗」を意味します。大震災後に頭角をあらわし、日本に希望を与え、国民の圧倒的多数の支持を受けるようになった政治家・宮藤隼人。その姿を通して、総理大臣の資質とはなにかという問いかけに真正面から答えようとしています。

 

[おもしろさ] 理想的な総理大臣でも、やがて変質する! 

日本の政治にはびこる悪弊と閉塞感。それらを打破できる政治家とは、誠実で、信頼感があり、スピーチがうまく、しかも日本を活性化させる明確なビジョンを有した人物にほかなりません。10年間宮藤の政策秘書として尽力したあと、内閣官房専門調査官として官邸で彼を補佐することになる内閣調査官・白石望。彼にとって、宮藤隼人は、そうした条件をすべて兼ね備えた政治家・総理大臣だったのです。事実、どのような試練にぶつかっても、宮藤はソツなく事を収めていったのです。ところが、アフリカのウエステリアでウラン鉱山が発見された頃から、次第に宮藤の独裁的で、強権的な言動が顕在化してくることとなります。そこには、原子力発電を軸に日本の活性化を企てようとする彼の構想が絡んでいたのです。本書の魅力は、権力の中枢に座り続けているなかで、総理大臣が、事を急ぎすぎるようになり、言動を徐々に変質させていくプロセスがリアルに描かれている点です。

 

[あらすじ] 独裁化する総理を目の当たりにする側近の苦悩

自然エネルギー発電の有効利用と原発代替エネルギーとしての地熱発電の建設を大々的に進めることで、将来的には、原子力発電には依存しない社会を実現することを目標に据える。と同時に、当面は、日本再生の切り札として、安全面での新基準をクリアした、日本の優れた原子力発電技術を世界に輸出する。宮藤総理が打ち出した「日本フェニックス計画」の骨子です。それをベースに、宮藤はますますカリスマ性を高めていきます。しかし、逆に、彼の変質ぶりを懸念し、折に触れて苦言を呈しようとする白石の苦悩が増幅していくのです。さらに、白石の幼馴染で、総理大臣の権力に食らいつき、妨害工作を続ける新聞記者・神林裕太も、白石の悩みの種になっていきます。

 

コラプティオ (文春文庫)

コラプティオ (文春文庫)

  • 作者:真山 仁
  • 発売日: 2014/01/04
  • メディア: 文庫