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『スケープゴート』 - 「日本初の女性総理」誕生までの道筋

「総理大臣を扱った作品」の第三弾は、幸田真音スケープゴート』(中央公論新社、2014年)。大学教授から政治家に転身した三崎晧子が「日本初の女性総理」になるまでの過程と、大臣・総理大臣というお仕事の実態がズバリと浮き彫りにされています。2015年にWOWOWで放映された『スケープゴート』の原作本。主人公の三崎晧子を演じたのは黒木瞳さんでした。

 

[おもしろさ] 有能なリーダーでも、女性ということだけで

本書の特色は、大臣・総理大臣というお仕事の周辺が興味深く描かれていること。例えば、①記者会見用の「想定問答集」が常に用意され、自分の言葉で思いを伝えるのが難しい。②どんなときでも食べられるときにはとにかくガンガン食べておかないと、身体がもたない。③相当厳重な警備体制のもとにおかれ続ける。④新旧大臣の引継ぎ業務あまりにも簡略化されている。⑤選挙で当選するというみそぎを経ないと、一人前とみなされない。⑥職員や記者との距離感の難しい…。また、たとえ優れた考えやビジョンを持っていたとしても、女性というだけで、批判・中傷・嫉妬の的になりがちな男性優位の「政治屋」たちに対する批判にも言及されています。「いまの日本で女性にそれなりの地位や権力を与えられるとしたら、それは、誰かのスケープゴート役ぐらいしかないのかもしれない…。それでも、与えられた機会を生かして、登っていく女性がいてもいいじゃない。それでしか、まだ日本では女性たちに開けない道ならば、私は堂々と胸を張って、その道を歩いていく」という晧子の意気込みが印象的です。

 

[あらすじ] 山城泰三と三崎晧子:奇妙な持ちつ持たれつ

テレビの情報番組にコメンテータとして定期的に出演している三崎晧子。外資系の証券会社で企業買収などの業務経験を有する彼女は、東都大学政策科学研究科の教授を務めています。ある日のこと、次期総選挙で政権奪還を目論んでいる明正党総裁の山城泰三に引き合わされ、政策立案のための勉強会の座長を要請されます。父親との確執から政治家を敬遠していた彼女は、なかなか決心できません。ところが、なぜか、座長への就任を伝える記事が数日後の新聞に掲載。その後、内閣府特命担当大臣金融担当に就任すると、今度は、参議院選挙に立候補することを余儀なくされます。当選した晧子を待ち受けていたのは、大臣、さらには官房長官への就任。それらはすべて山城の策略。晧子の心の中にある政治家としての「欲」を見抜いたうえで、彼女を引き込き、使い勝手の良い持ち駒にするために目論まれたのです。彼女自身が総理大臣の座を射止めるという、どんでん返しの結末に至るまでの展開はスリリングで、大いに楽しめることでしょう!