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『トロイの木馬』 - 知恵で国家を転覆させる! 詐欺師の矜持

「詐欺師を扱った作品」の第二弾は、江上剛トロイの木馬』(朝日文庫、2020年)です。どうしようもない国家を転覆させたい。が、爆弾など使わない。知恵を働かせて、世の中を転覆させる。それこそが、本書に登場する詐欺師・クルス八十吉たちの矜持なのです! しかも、詐欺を仕掛ける目的は、世にはびこる悪を懲らしめるためなのです。確かに詐欺は犯罪であり、加害者であることには違いありません。しかし、あたかも義賊のように振る舞う彼らについては、つい応援したくなってしまうかもしれませんね。

 

[おもしろさ] 悪を叩くために詐欺を企てる! 

お金を儲けるために騙すのではない。悪を叩くために詐欺を企てる。そのことが、彼らの利益につながる。クルスたちの考え方です。では、どのような手法で、「チーム・クーム八十吉」による詐欺話は進められるのでしょうか。「第二のトロイの木馬」と称されている大掛かりな詐欺話は、①東日本大震災の際に勃発した福島第一原発事故に伴う放射能汚染(汚染物質・土・水)問題、②放射能汚染土を秘密裏に埋めてしまった土地をいったん学校法人に払い下げることを決めたものの、それを中止にしてしまったことで浮上した問題、③中国の原発に伴う核のゴミの処理問題と日中の関係改善という三つの難問を一挙に解決しようとして企てられたのです。しかも、騙す相手は国家だったのです! 

 

[あらすじ] 互いの信頼関係で結ばれた「チーム・クルス八十吉」

ビズ(榎本武三)、シュン(石川俊一)、マダム(蓮美陽子)、ヒサ(迫水久雄)らとともに、30年近くチームを組み、行動を共にしてきたクルス八十吉。彼は、太平洋戦争のときに軍が極秘に集め、のちにGHQのマーカット少将に託された「27兆3700億円」という巨額の「M資金」の管理責任者を務める人物と称していました。バブル崩壊後の1995年、多くの庶民を苦しめていた扶桑銀行などに対し、M資金のうちから5000億円を活用して、融資を行うという提案をちらつかせて、1億円を振り込ませるという形で、「正義の鉄槌」を下しました。それが「第一のトロイの木馬」でした。そして現在、上述の「第二のトロイの木馬」が始動することに。