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『チーム・バチスタの栄光』 - 大学病院でのミステリアスな出来事の真相は? 

「医師を扱った作品」の第三弾は、海堂尊『新装版 チーム・バチスタの栄光』(宝島社文庫、2015年)。そのミステリアスな出来事は果たして「殺人」なのか? 真相が解き明かされていく医療ミステリーです。大学病院における組織や医療の実情、チームで手術を行うときの難しさ、そして根底にある医師たちの苦悩などを知ることができます。「事件」を解決に導いていく田口公平と白鳥圭輔。彼らが登場する本作はシリーズ化され、「チーム・バチスタシリーズ」もしくは「田口・白鳥シリーズ」と呼ばれるようになっていきます。そして、それらを原作とし、2008年10月~12月にフジテレビ系で放映されたテレビドラマ『チーム・バチスタの栄光』(出演は伊藤淳史さんと仲村トオルさん)をはじめ、何度かドラマ・映画化されています。

 

[おもしろさ] 張り巡らされた監視網をいかにかいくぐるのか? 

もし手術中に「殺人が行われているとしたら、それはまるで硝子のショーケースに飾られた宝冠を、衆人環視の中で盗み出すようなもの」。選りすぐられたスペシャリストたちの視線、外部から降り注ぐ不特定多数の視線、ビデオ監視、麻酔記録、看護記録、経時的にモニターされている体内血液情報など、二重三重に張り巡らされた監視網をかいくぐり、果たして殺人が可能なのか? また可能な場合、その手法は? 田口と白鳥のコンビによる謎解きのプロセスとは? 大いに楽しむことができるでしょう。

 

[あらすじ] パッシブな田口とアクティブな白鳥

東城大学医学部付属病院に働いている窓際万年講師で、不定愁訴外来勤務の心療内科医・田口公平。呼び出しを受けてやってきた病院長室で、高階病院長から桐生恭一・臓器統御外科助教授が率いる手術チームに関する内部監査が必要かどうかを見極める予備調査を依頼されます。手術チームとは、7人の精鋭医師たちから構成される「チーム・バチスタ」のこと。「肥大した心臓を切り取り小さく作り直すという、単純な発想による大胆な手術……。手技は難しくリスクは高い。成功率平均6割」と言われるなか、彼らは、成功率100%を誇る確率でバチスタ手術(左心室縮小形成術)を行っていたのです。ところが、30回の手術のうち、最近の3例では立て続けに術中死する事態が発生。のちに厚生労働省の大臣官房秘書課付技官の白鳥圭輔が、田口と一緒に調査をするようになります。「パッシブな田口とアクティブな白鳥」という正反対の個性を持った二人。一連の連続術死の犯人とトリックにたどり着こうと邁進します。