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『Disruptor 金融の破壊者』 - 金融破綻への備えが必要なのでは! 

メガバンクを扱った作品」の第五弾は、江上剛『Disruptorディスラプター 金融の破壊者』(光文社、2021年)です。ディスラプターとは、破壊者のこと。ただ、「単なる破壊者」である「デストロイヤー」とは異なり、「新しい状況や秩序」を生み出す破壊者のことを意味します。金融庁の大きな組織改編と新型ウイルスによる感染拡大という環境下で、地銀発のメガバンク壊滅の可能性と、それに対する備えの必要性が語られています。

 

[おもしろさ] 金融行政・メガバンク・内閣、それぞれの危機

1998年の金融不祥事で、旧大蔵省から金融の検査・監督部門が分離独立して発足した金融庁。それは、金融機関と旧大蔵省が癒着し、金融機関の検査・監督が馴れ合いになり、不祥事や不良債権を拡大させたことへの反省から行われました。その結果、金融庁の金融検査は一変。非常に厳しいものに変わっていったのです。しかし、2018年の大幅な組織変更により、検査局が廃止。検査機能が縮小され、総合政策局に組み込まれることになります。そして、金融機関を厳格な検査で追い込むのではなく、銀行などを支援する「育成庁」へと変わろうとしたのです。もっとも、銀行が抱えている問題が金融当局に見えない状態におかれてしまう危険性も増すことになるのですが……。本書では、第一にそうした金融庁による銀行行政の変遷、第二に銀行にとって金融庁の存在感が希薄化し、銀行の実態が秘密のベールに包まれ、銀行が大きな問題を抱えていても、それが表面化しにくくなっている現状や、「自分のことしか考えない」メガバンクにおける「公的意識」の欠如、第三に首相秘書官兼補佐官トップの小野田康清に代表される官邸官僚に牛耳られ、「たとえ溺れて死にそうな銀行をあっても助けない」という表現に示されるように、金融危機に直面しても積極的な役割を行使しないという機能不全に陥ってしまっている花影栄進内閣の低落ぶりなどが描かれています。

 

[あらすじ] 無邪気なひとつのツイートから始まった! 

有力なフリージャーナリスト・正宗謙信を父、神楽坂でイタリアンレストランの経営者・博子を母に持つ中学生の正宗悠人。感染症にかかることを少しでも軽減するため、一時的に祖父母のいる兵庫県の田舎で暮らしています。ある日、神戸に本店がある地銀「のじぎく銀行」の支店に20人ほどの人が行列を作っている場面に遭遇。持っていたスマホで写真を撮った彼は、並んでいる人から「預金を下そうと思ってね」「どうもこの銀行は具合が悪いみたいなんや」という声を聞きます。そこで、ツイッターに「のじぎく銀行が危ないって。並んでいるおばさんが言ってた」と写真付きで投稿。フォロワーは数人しかいませんでした。しかし、この無邪気なツイートが取り付け騒ぎに発展。さらには、メガバンク壊滅へとつながる、より大きな波紋を呼んでいきます。一方、地銀発の銀行連鎖破たんを懸念していた、金融庁総合政策局長の大森淳一は、実態調査のため、部下を現地に送り込みます。