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『ジャパン・プライド』 - メガバンクにおける新しい事業領域

メガバンクを扱った作品」の第二弾は、江波戸哲夫『ジャパン・プライド』(講談社、2009年)です。日本経済の最前線で働く人々、とりわけリーマン・ショックと立ち向かったバンカーたちの姿をリアルに描いた作品。舞台はメガバンクの東西銀行。登場人物が銀行や企業のあるべき姿を模索し、それぞれのレベルで突破口を見つけるまでのプロセスを読者に突きつけています。と同時に、多くの日本人が失ってしまった働くときの「プライド」をもう一度獲得するには、どうすればよいのかを示しています。出口を見出せないでいる昨今の経済状況のなかで、人々にワクワク感や清涼感とともに、一条の光明を照らし出してくれる作品と言えるでしょう。

 

[おもしろさ] バンカーとしてのプライド

本書の特色は、バンカーたちがかつて持っていたプライドが失われていった事情と、再びプライドを獲得していくプロセスを描き上げている点にあります。「健全な経済活動に潤滑油ともいうべき資金を供給することによって日本経済を強くする。一緒になって、企業を育てる。取引先とともに栄える。日本人の豊かな生活を支える」。バンカーたちが有していたプライドとは、そのようなものでした。ところが、バブルの時代には、金にまみれた狂乱に身を投じました。その報いとして、銀行員であることが恥ずかしいような経験もしたのです。失われた十数年にあっては、滔々たるグローバリゼーションの流れのなかで、日本の銀行は方向を見失っていきます。その後も、低成長が当たり前という事情のもと、多くの金融機関は合併や経営統合で淘汰。「グローバル・スタンダード」の名のもとに、節操のない金儲け主義や利益至上主義が人々の間で蔓延。そのため、銀行で働く者にとって、昔のようなプライドをもち続けることが難しくなり、なにをよりどころにして頑張ればよいのかさえ、わからない状態が長きにわたって続いてしまったのです。新たなプライド探しの指針となるべき考え方が浮かび上がってきたのは、2008年9月のリーマン・ショック以後のことです。それは、数字だけではなく、「経営者や従業員、商品、ビジネスモデルなどをトータルで判断」するという姿勢を保ちながら、「本当に顧客志向の金融サービス」を行うという姿勢と言うことができます。

 

[あらすじ] 超富裕層のコンシェルジュ・金融アドバイザー! 

東西銀行戦略営業本部PB第一部長の高梨優。彼のミッションは、世界を股にかけて活躍されている最も有能な日本のオーナー経営者のコンシェルジュになること。そのためには、仕事はもちろん、趣味、買い物、旅行など、どのようなことでも、また本人のみならず、家族のことでも、全力を挙げて支援することが求められます。ただ、彼がめざしている本格的な「プライベート・バンキング」(超富裕層の金融アドバイザーになって運用手数料をもらうビジネス)とは、欧米では先行している業態であったとしても、日本では「まだどこも、また誰もやっていない」領域だったのです。そんなプライベート・バンキングへのチャレンジが展開されていきます。