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『メガバンク絶滅戦争』 - 危機に陥ったメガバンクの運命は? 

メガバンクを扱った作品」の第四弾は、波多野聖『メガバンク絶滅戦争』(新潮社、2015年。文庫化改題『メガバンク最終決戦』2016年2月)です。売国奴の陰謀によって危機に陥ったメガバンクを救うために、同行の「辣腕ディーラー」である桂光義専務と「気配り総務」二瓶正平のコンビが活躍します。同じ主人公が登場する作品はその後も刊行され、「メガバンク・シリーズ」になっていきます。具体的には、『メガバンク絶体絶命』(新潮文庫、2017年。『メガバンク絶体絶命 総務部長・二瓶正平』に改題)、『メガバンク戦線布告 総務部・二瓶正平』(20年9月)、『メガバンク最後通牒 執行役員・二瓶正平』(2020年10月)、『メガバンク全面降伏 常務・二瓶正平』(2021年4月)があります。著者の波多野の本名は藤原敬之。株式投資ファンド・マネージャーとして活動後、藤原オフィス・アセット・マネジメント代表取締役として独立されています。

 

[おもしろさ] 売国奴+謎の投資ファンド VS 桂+二瓶のコンビ

売国奴金融庁長官・五条健司と謎の外資ファンドがメガバンクの東西帝都EFG銀行(TEFG)に仕掛けた買収の謀略。それに対して、同行の資産負債管理を一手に引き受けている辣腕ディーラーである桂光義専務と「気配り総務」二瓶正平のコンビが対抗します。両陣営による息詰まる攻防戦! 国際金融の裏表を知り尽くしたファンド・マネージャーとしての力量・情報力を随所で感じさせられるコンテンツ! 大いに楽しむことができるでしょう。「今しか考えられない日本人、今がずっと続いていくと思っている日本人……。それが突然、状況が一変するとただ慌てふためく」「でも、それに見事に対応するのも日本人ですよ」。興味深いやり取りとして印象に残っています。

 

[あらすじ] 日本最大のメガバンク頭取のあるこだわりが

いまでは「世界最高格付けを得た日本最大のメガバンク」としての地位を誇っていた東西帝都EFG銀行。同行の西郷洋輔頭取にとっての悲願は、長たらしいその名前を止め、経営の実態に合わせて、かつての財閥名「帝都」を新たに冠した「帝都銀行」に改名することでした。それに対して、帝都大学法学部の民法学者・桂光則教授のゼミの後輩に当たる金融庁長官・五条健司は、政府、財務省金融庁内をまとめるには、ひとつ条件があると、ある計画を持ち出します。それが地獄の釜の蓋を開くことになるとは、西郷には想像もつかなかったのです。こうして、銀行名を変えることの許可を得たいがため、同行は、償還までの期間が長い日本国債(当初は、30年債で3兆円分と構想していたのを40年債で5兆円分に修正)を大量に引き受けます。ところが、そうした行為の裏側では、その目論見を利用して、国債暴落を契機に、4兆円にも及ぶ損失を生じさせることで、東西帝都EFG銀行に機能不全をもたらし、一挙に買収してしまおうというグローバルな規模でお膳立てされた謎の謀略が着々と進行していたのです。東西帝都EFG銀行は、破綻寸前の危機に。