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『経営者失格』- 三社(サンライズ、日本開発、東邦商事)三様の思惑

「倒産を扱った作品」の第二弾は、咲村観『経営者失格』(講談社文庫、1981年)。有名デザイナーである大石義介社長に率いられるサンライズ。一世を風靡したファッション製品をテコに、会社は大躍進。しかし、イケイケドンドンの経営方針が裏目に出て、倒産の危機に陥ります。同社に資金を提供している日本開発(陸上運送業務と港湾運送業務が主体)と東邦商事(総合商社)は、サンライズとどのように向き合うのか? 再建を重視するのか、それとも出資した資金の回収を重視するのか? サンライズを倒産に至らしめた要因、破たん寸前のサンライズが見る「経済風景」、資金回収をめぐる日本開発と東邦商事の駆け引きが克明に描かれています。サンライズのモデルは、かつてヤングファッションとして人気を博した「VAN」。ヴァンジャケット。創業者は石津謙介。1978年に経営破綻し、その後再建された。

 

[おもしろさ] 経営のセンスを伴わないデザイナー経営者

本書の読みどころは、①サンライズの抱える多くの問題点、②自社のデザインに対する大石社長と息子の副社長の自信過剰とそこから導かれた無理難題とも言える他社への要請の数々-ここまで徹底していると、驚きを通り越して、あきれ果ててしまう-、③倒産の危機に瀕したサンライズの窮状、④サンライズへの対応をめぐる日本開発と東邦商事の共闘・駆け引き・対立のプロセス、⑤日本開発内部における派閥対立。⑥オイルショックに伴う日本経済の大きな変化など、非常に多岐にわたっています。

 

[あらすじ] こうして始まった「苦しみの序曲」

日本開発の経営企画部次長の田島隆三。物流開発部の近藤部長と馬場次長から、サンライズファッションというヤング向けウエアなどを製造販売している会社との業務提携を推進したいと言われます。一方、田島が中心となってまとめた経営企画部の結論は、ネガティブなものでした。「同社社長の大石義介は有名なデザイナーではありますが、経営的な手腕にかけては、過去からとかく批判が同業者間で絶えません。現在はそのユニークなデザインによる製品が時流に乗ってヤングに受け、売れ行きは好調でありますが、今後もそれを持続できるかとなると、専門家などの意見では、否定的な見解が多いんです。大石社長のデザインは作品的には高度なものですが、一般受けし難い要素を基本的に含んでいることと、同氏および子息の大石伸一副社長の会社経営に対する考えの甘さが指摘されています」。それに対し、陸上業務担当の高沢常務は、「現在の競争の激しい業界のなかで生きのびようとすれば、或る程度危ない橋も渡らねばならん」と、田島に言い放ちます。サンライズとの業務提携は、高沢常務の指示のもと、急速に進展。およそ45億円かけて、地上10階、地下2階の物流ビルの建設が決まります。「この設備投資が将来会社の発展を阻害する要因になるのでは」という懸念を抱く田島。やがて、工事が始まると、自社のビルでもないのに、サンライズ側からは、スケジュールを無視した設計変更・追加工事がどんどん出されます。「子供だましの絵を書いてきて、こんな風にビルの外観を仕上げてくれ」といった要求など、およそ常識では考えられないことさえ言ってくるのです。挙句の果て、「この程度の無理が聞けんような会社なら、ビル工事から降りたらどうだ」と言われる始末! 田島をはじめ、工事関係者は大いに憤慨し、振り回されることになるのですが、それらはまだ「苦しみの序曲」にすぎませんでした。のちに同社が倒産の危機に直面するなか、田島が心配したように、サンライズとの業務提携は、日本開発にとって大きな足かせとなっていったからです。